連載:医療保険は不要 第22回です。
前回は、 月間所得30万円の自営業者にも医療保険は不要 という話でした。
今回は、専業主婦(主夫)にとって、医療保険に加入する必要があるかどうかを考えます。
「不要な保険に敢えて入る意義」を考えることが大事
連載:医療保険は不要 の冒頭で書いたように、医療保険加入は自由(任意)、つまり不要です。
「自分にとっては入る意義がある」と思うなら医療保険に入ればいいし、そうでないなら医療保険に入らなければいいのです。
そこを意識しながら、以下をお読みください。
入院費用試算の前提について
今回は、専業主婦(主夫)の入院費用について‥
- 35歳、入院前の食費1.5万円/月、 入院前のお小遣い1万円/月、配偶者の月間所得30万円
- 保険診療しか受けない
- 傷病手当金は支給されない
- 入院開始後1年半を経過した時点から障害基礎年金(2級)を受給する
- 子供は二人で、いずれも障害基礎年金の加算対象となる
という前提で計算し、それに基づいて医療保険加入の是非を考えます。
※この記事では、入院費用を「 入院による家計のダメージ 」という意味で使っています。
専業主婦ですから、働いている人よりは外食が少ないものとして、入院前の食費1ヶ月分を15,000円として計算しています。
医療保険加入の是非を合理的に考えるなら、入院費用計算の考え方・高額療養費・傷病手当金への理解が必要です。以下の記事には必ず目を通して下さい。
- 入院による家計へのダメージを計算する方法
- 高額療養費制度のおかげで入院医療費はとても安くなる-医療保険に加入する意義が乏しいと言われる最大の理由
- 傷病手当金-病気やケガで収入を失ったときに給料の2/3以上を公的医療保険が補償してくれる仕組み
- お金がないなら医療保険に入るべきではない
専業主婦(主夫)は収入がありません。だから入院しても収入は減りません。
そのため、働いている人よりも、入院に備えて保険に入る意義は乏しくなります。
以下、様々なケース別に、そのことを確認していきましょう。
配偶者が一般会社員である専業主婦(主夫)の場合
配偶者が一般会社員である専業主婦(主夫)の場合、1年半入院しても入院費用は約150万円です。
これくらいなら、貯蓄と借入で何とかなります(なんとかならないなら、保険に入っている場合ではありません)。
また、入院期間が1年半を超えると障害基礎年金を受給することができるようになります。
そのため、入院1年半後からは収入減がゼロどころかマイナス(つまり収入増)となり、かえって入院費用が減っていきます。
あえて医療保険に加入する意義はあるでしょうか。
配偶者がシャープ社員である専業主婦(主夫)の場合
このブログでは、一般社員より恵まれた大企業社員の代表例として、シャープ社員の例をよく使います。
シャープ社員を配偶者に持つ専業主婦(主夫)の入院費用を見てみましょう。
シャープ社員を配偶者に持つ専業主婦(主夫)は、一般社員を配偶者に持つ専業主婦(主夫)より恵まれています。
1年半入院しても入院費用は約80万円です。3年間入院すると、入院費用がマイナスになります(つまり儲かってしまいます)。
あえて医療保険に加入する意義はあるでしょうか。
配偶者が教師または公務員である専業主婦(主夫)の場合
配偶者が教師または公務員である専業主婦(主夫)は、シャープ社員を配偶者に持つ専業主婦(主夫)より、さらに恵まれています。
以下は、配偶者が三重県公立学校教師である専業主婦(主夫)のケースですが‥
2年間入院すると入院費用がマイナスになり、儲かってしまいます。
三重県公立学校教師以外の教師や公務員を配偶者に持つ専業主婦(主夫)についても、大企業社員を配偶者に持つ場合よりも、さらに恵まれているはずです。
あえて医療保険に加入する意義はあるでしょうか。
配偶者が自営業者である専業主婦(主夫)の場合
配偶者が自営業者である専業主婦(主夫)の場合は、入院費用は一般社員並みです。
あえて医療保険に加入する意義はあるでしょうか。
育児家事作業の外注に備えて医療保険に入る必要はない。
ここまで見てきて、専業主婦(主夫)にとって、医療保険に加入する意義はあったでしょうか。
ところが、 専業主婦(主夫) にも医療保険が必要だと言う人もいるのです。
医療保険に入る必要はないに決まっているのですから、問題は「医療保険に入る意義があるかどうか」です。
「 専業主婦(主夫) が入院すると家事育児を外注しなければならない。」というのがその理由のようです。
たしかに、 専業主婦(主夫) が普段行っている育児家事作業をすべて外注すると、支出が増えます。
家事代行の相場は時間あたり2,000円ほど~、ベビーシッターは時間あたり1,500円ほど~、
専業主婦に生命保険はいらない!?|保険比較ライフィ
確かに痛いですが、家事外注が原因で家計が破たんするなんてことは、考えにくいです。
保険は、支払える程度の損と引き換えに、破たんにつながるような大きなリスクを確実に回避するために使うものです。
その観点で言うと、家事外注に備えて保険に入る意義なんて、あるんでしょうか。
実際、自助努力や親族からの助けで何とかなるケースがほとんど
医療保険に限りませんが、リスクに備えるのに保険を使うのは最後の手段です。保険加入は、キャッシュフローの期待値を悪化させますからね。
専業主婦(主夫) 入院時の家事について言えば、保険に頼る前に以下のことについて検討するべきでしょう。
まず自助努力が大事です。
- 可能な限り家事を機械化すればいいのでは?
- 子供に家事をしてもらえるのでは?
- 夫(妻)にも、もっと家事をしてもらえるのでは?
- 家事外注費くらいは貯蓄から出せるのでは?
次に両親や義父母を頼れませんか。
- 自分や配偶者の親に家事育児を助けてもらえるのでは?
- 自分や配偶者の親に子供を預けられるのでは?
- 自分や配偶者の親から資金援助や貸付を受けられるのでは?
保険以外のあらゆる手段を検討すれば、「別に保険に入る必要まではないし、保険に入る意義も薄いよね。」という結論になるケースが大勢を占めると思います。
配偶者に先立たれても専業主婦(主夫)に医療保険は不要
配偶者に先立たれた場合を考えると、専業主婦(主夫)の方は不安になるものです。
私は、収入激減で2年間ほど妻の扶養家族となり、専業主夫同然となっていたことがあります。
そのころは「妻に先立たれた後のことをかんがえたら、もしかして、医療保険に入ったほうがいいのだろうか?」ということを真剣に考えていました。
色々と調べた結果、妻に先立たれた後の入院費用としては最大で150万円程度を用意すれば十分であることが分かりました。
今は、妻に先立たれた場合に備えて医療保険に入る意義は、とても薄いと考えています。
以下で詳しく説明します。
妻に先立たれると、専業主婦(主夫) は高額療養費の付加給付を受けることはできないが‥
私の妻は地方公務員(教師)です。
私が専業主夫であれば、妻の扶養親族として、公立学校共済組合の規定による高額療養費の付加給付を受けることができます。
また、教職員互助会からは、さらに上乗せ給付を得ることが出来ます。
妻が地方公務員(教師)である専業主夫が、妻が健在なうちから医療保険に入る意義は乏しいです
妻に先立たれると、専業主夫は国民健康保険に加入することになります。
これは、妻が地方公務員(教師)である専業主夫はもちろん、それ以外の専業主夫についても同様です。
国民健康保険に加入すると、付加給付等の恩恵がなくなってしまいます。
ですから、妻に先立たれた専業主夫は、その後の医療費が少々心配になって「医療保険に入らなくても大丈夫かなあ?」と思ってしまうものです。
付加給付がなくても、専業主婦(主夫)の入院費用は最大で150万円程度。
妻に先立たれて付加給付の恩恵を受けることができなくなっても、専業主夫の入院費用は大したことがありません。
次の表は、国民健康保険に加入する専業主夫の入院費用について‥
- 入院前は、食費1.5万円/月、お小遣い1万円/月
- 保険診療しか受けない
- 入院開始後1年半を経過した時点から障害基礎年金(2級)を受給する
- 障害基礎年金の加算対象となる子供は1人
- 福祉医療費助成制度は利用しない
という前提で試算したものです。
※ここでは、入院費用を「 入院による家計のダメージ 」という意味で使っています。
妻に先立たれた専業主夫が1年半入院した場合の入院費用は、せいぜい150万円程度ですね。
入院期間がそれ以上延びる場合は、障害基礎年金を受けることができるようになるため、入院費用は減っていきます。
さらに、ひとり親家庭に対する福祉医療費助成制度によって、入院費用はもっと軽減されます。
ひとり親家庭に対する福祉医療費助成制度は、自治体ごとに異なります。
伊賀市の例については次の記事で書きました。
配偶者に先立たれた後、150万円を難なく支払えるなら、医療保険は不要
妻に先立たれた専業主夫が、150万円を難なく支払えるならば、入院リスクに対する備えは出来ていると言えます。
この状況で医療保険に加入する意義はあるでしょうか?
150万円の支払いが不安なら、医療保険に入ってはいけない
では「貯蓄や借入で150万円を難なく支払える」とは言えない場合はどうでしょうか。
医療保険に入っておかなければ、入院した時に大変になりそうですよね。
医療保険に入る意義があるように見えるかも知れませんが、実はそうではありません。
逆に、この状況では、医療保険に安易に入ってはいけないのです。医療保険への加入が大きなギャンブルになってしまうからです。
お金がないのに医療保険に入ると、入院以外のリスクへの備えが薄くなる
医療保険に入ると、一生の間に100万円程度は保険料を支払うことになり、その分だけ家計の支払能力が落ちます。
医療費に備えて用意すべき150万円の支払いが心配な状況で、家計の支払能力を100万円も落とすと、50万円の支払いすら心配な状況になるわけです。
それでも、入院リスクに対する備えは、まずまず安心になります。
しかし、入院以外のリスクに対する備えはどうでしょうか。ますます薄くなりますよね。
50万円の支払いすら心配な状況では、入院以外のリスクに保険を掛けるわけにもいきません。
また、そもそも、入院以外のリスクには、保険を掛けることができないものもあります。
医療費に備えて用意すべき150万円の支払いが心配な状況で医療保険に入るのは、「入院リスクに対する備えだけを厚くして、入院以外のリスクに対する備えは薄くする」というギャンブルなんです。
だから、150万円の支払いが不安なほどにお金がないなら、安易に医療保険に入ってはいけないのです。
配偶者に先立たれた専業主婦(主夫)の医療費はどのように用意するべきか
繰り返しますが、配偶者に先立たれた後の医療費が心配でも、軽々しく医療保険に入ってはいけません。
では、配偶者に先立たれた後の医療費の支払いに不安がある専業主夫(主婦)は、医療費の支払いに対してどのように備えれば良いのでしょうか。
配偶者の生前に働いて150万円貯める
一番いい方法は、配偶者の生前に、専業主夫 (主婦) が働いて150万円貯めることです。
働いて毎月5万円ずつ貯めていけば、30ヶ月で150万円になります。毎月10万円ずつ貯めていけば、15か月で150万円になります。
そんなに難しいことではないですよね。
配偶者にかける死亡保険金を150万円増やす
働いて150万円貯めるのは良い方法なのですが、150万円貯まる前に配偶者に先立たれるとまずいです。
そこで、配偶者にかけている生命保険の死亡保険金の金額を、150万円以上(現実的にはキリよく200万円くらいでしょうか)増やしておきます。
お金が貯まったら、死亡保険金を減額して元の金額に戻せばいいです。
まとめ
専業主婦(主夫)にとって、あえて医療保険に加入する意義は、薄いでしょう。
配偶者に先立たれた後の医療費が心配な専業主婦(主夫) は、配偶者の生前に貯蓄を増やすのが一番です。
貯蓄が十分増える前に配偶者に先立たれることが心配なら、妻に掛ける生命保険の死亡保険金の金額を、相応に増額しておくと良いです。
なお、きちんとしたライフプランを立てると、死亡保険金の金額を適正に計算するのに便利です。
配偶者に先立たれた後の医療費が心配な専業主婦(主夫) の方は、医療費だけを考えるのではなく、ライフプラン全体を真剣に考えてみてはどうでしょうか。