連載:医療保険は不要 第31回です。
前回は、年代別の入院確率 について書きました。
今回は、長期入院を十分に保障する医療保険がないことについて書きます。
厚生労働省の患者調査などで平均入院日数を調べていると、3年を超えて入院し続けるような超長期入院患者が、ごく僅かながら存在することがわかります。
超長期入院は、発生確率が少ないものの、ひとたび発生すれば破滅的な損害を家計に与えるリスクの一つです。
保険で対処すべきものですが、超長期入院に対応した医療保険はありません。
就業不能保険や所得補償保険で備えるか、または長期入院の際に受ける損害を少なくする努力をしたうえで、貯蓄など自助努力で対応するしかありません。
入院日数の分布
「平成26年患者調査閲覧第65表推計退院患者数,在院期間×性・年齢階級×病院-一般診療所・病床の種類別」を参考に、入院日数について調べてみました。
高齢者が入院してもほとんどは60日以内の短期入院となる
高齢者でも長期入院する人は少ないです。以下は、退院患者のうち、入院日数が60日以内で済んだ人の割合ですが…
年令 | 60日以内の短期入院 |
---|---|
20歳未満 | 98.27% |
20代 | 97.26% |
30代 | 97.10% |
40代 | 95.43% |
50代 | 94.38% |
60代 | 93.91% |
70代 | 92.15% |
80代 | 86.70% |
90代以上 | 81.40% |
90代の退院患者でも、8割以上の方が、入院日数は60日以内で済んでいます。
しかし一方で、61日以上入院する長期入院患者は確実に存在することがわかります。
※この記事では61日以上の入院を長期入院、3年以上の入院を超長期入院と呼ぶことにします。
何年も入院する超長期入院患者は確かに存在する
長期入院患者を、入院日数によって3種類に分けて、入院患者全体に対するそれぞれの割合を見ていきましょう。
年令 | 2月~18月 | 18月~3年 | 3年以上 |
---|---|---|---|
20歳未満 | 1.37% | 0.00% | 0.00% |
20代 | 1.88% | 0.00% | 0.00% |
30代 | 2.71% | 0.00% | 0.00% |
40代 | 4.57% | 0.00% | 0.11% |
50代 | 5.36% | 0.17% | 0.17% |
60代 | 5.57% | 0.22% | 0.26% |
70代 | 7.27% | 0.26% | 0.32% |
80代 | 12.26% | 0.50% | 0.46% |
90代以上 | 16.14% | 0.96% | 1.37% |
表の中で0%となっているところは、端数処理でそうなっただけであって、実際に一人もいないというわけではありません。
40代以上では、退院患者のうち1000人に1人以上は3年以上入院しています。
3年以上の超長期入院はめったに起きないですが、全く起きないというものではありません。そして一度起こってしまえばかなり大きな損害を家計に与えます。
一家の稼ぎ手が超長期入院する羽目になったら、家庭によってはライフプランの見直しに追い込まれるかもしれません。
超長期入院患者が全体の平均入院日数を引き上げている
平成26年患者調査閲覧第73表推計退退院患者平均在院日数,性・年齢階級×傷病大分類×病院-一般診療所別によると、高齢者の平均入院日数は概ね1月以上となっていました。
年令 | 平均入院日数 |
---|---|
60~64歳 | 30.4 |
65~69歳 | 29.5 |
70~74歳 | 33.5 |
75~79歳 | 36.9 |
80~84歳 | 41.4 |
85~89歳 | 51.8 |
90歳以上 | 76.3 |
ただし、これは、多くの人が一月以上入院するという意味ではありません。
何年も入院するような超長期入院患者が、平均入院日数を押し上げているのです。
平均だけを見ていても、こういうことはわかりませんね。
入院が延びるとどんどん保障が薄くなる
入院期間が延びれば延びるほど保障はどんどん薄くなります。
18ヶ月以下の入院は傷病手当金で保障される
例えば、会社員やサラリーマンは、入院などで就業不能になってから、最低でも18カ月の間は傷病手当金を受給することができます。しかしいずれ傷病手当金は打ち切られます。
18ヶ月を超える入院は障害年金で保障される可能性があるが
入院してから1年半ずっと病気で働けないようだと、障害年金の受給資格を得られる可能性が高くなります。
しかし、必ず障害年金の受給資格を得られると断言することはできません。
また、障害年金の受給資格を得ることが出来ても、支給される年金額は働いていた時の給料に比べてかなり少なくなります。
例えば、私の妻が今から1年半後に障害年金を受給できるようになったとしても、障害年金の合計は200万円/年未満です。
今の妻の年収が700万円以上ですから、1/3未満にまで年収が減ってしまいます。
入院が長くなれば、たとえ障害年金を受けることができても、家計が受ける打撃はとても大きくなります。
保障が薄いのに働けないと、家計へのダメージは深刻
長期入院による損害は、収入減少だけではありません。病院その他に支払う療養費用も膨らみます。
では、長期入院によって、家計はトータルでどれぐらいの損害を受けるのでしょうか 。
これまで医療保険のに関する連載で行った数々の入院費用試算
( 三重県公立学校教師の場合、会社員の場合、自営業者の場合) に基づいて、グラフを作りました。
入院中に無収入となる自営業者や会社員は、長期入院によるダメージがかなり大きいですね。
万一、3年を超える超長期入院をすると大変です。
ところが、超長期入院には医療保険では対応できない
3年を超える超長期入院はめったに起きませんが、起きてしまえば大きな損害を家計に与えます。個人で引き受けるにはあまりに大きなリスクです。
リスクマネジメントでとるべき手法を表す下の図で言えば、 超長期入院は左上のマスに位置します。
超長期入院リスクは、個人にとっては移転すべきリスクです。
では誰に移転すればいいのでしょう?答えは保険会社です。
ところが、私の知る限り、3年を超える超長期入院を保障してくれる医療保険は無いんですよね。
保険会社の存在意義は、個人では到底引き受けられない大きなリスク(不確実性)を、個人に代わって引き受けることにあるはずです。
しかし、医療保険については、各保険会社はこの社会的使命をどこかに置き忘れてるようですね。
残念ですが今後に期待しましょう。
長期入院で痛いのは、病院への支払いではなく、働けないことによる収入減
長期入院はダメージが大きいのですが、病院への支払いがダメージに占める割合は比較的小さいです。
ダメージの大部分を占めるのは働けないことによる収入減少です。
入院年数と家計の損害金額の関係を表したグラフをもう一度見てみましょう。
自営業者に注目してください。
入院中に無収入となる自営業に比べて、入院中も普段と同じ収入が有る自営業の場合は、長期入院によるダメージがぐんと少なくて済むことが分かりますね。
両者の差は、入院による収入減少があったか無かったかです。
保険をかけるばかりではなく、入院中でも所得が得られるような手段を真面目に検討しなければなりません。
入院しなくても働けなければ大ダメージ
ところで、病気になったからと言って必ず入院するわけではありませんよね。
前回書いたように「入院する必要まではないものの、なかなか回復せずにいつまでも働けない」ということもあります。
うつ病などの精神性の疾患には、そういうことが比較的起きやすいです。
このケースで医療保険は役立たない
こういう場合には、入院していなくても家計は大きなダメージを受けます。でも医療保険は全く役立ちません。
医療保険は、入院や手術に対して給付金や保険金を支払ってくれますが、入院や手術がなければ1円も支払ってくれません。
就業不能による収入減少に備えるには、医療保険は不向きなのです 。
働けないリスクに保険で対応するなら、医療保険ではなく就業不能保険や所得補償保険
では、働けないことによる収入の減少に備えるには、どのような保険を利用すればいいのでしょうか。
働けないことを条件に保険金を支払ってくれる保険ですね。
就業不能保険や所得補償保険と言われるタイプのものです。
とりあえず、医療保険は、働けないリスクをヘッジするにはイマイチです。
貯金や入院中の収入確保も大事
家計に襲い掛かるリスクへの備えついて、保険だけを考えてしまうのは短絡的です。
まずは次のようなことを考えましょう。
- 入院中の就業不能によるダメージを減らす
- 入院中も就業可能な仕事を持つ
- 不労所得(資産運用等による収入)を確保する
- コストの高い保険に頼らずダメージに耐える力を蓄える
- 貯蓄に励む
- 利用可能な相互扶助(福利厚生・親族同士の助け合い)を把握しておく
保険加入によって、キャッシュフローの期待値は大きく下がります。つまり、保険加入のコストはとても高いのです。
保険は、他の手立てがないときに、最後の手段として使うくらいでちょうどいいです。