HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

妊娠出産費用の平均は約25万円だけど、きちんと手続きをしないともっと膨らむ

連載:医療保険は不要 第10回です。

前回は、教師や公務員が病気休職すると、1年半は給料支給、その後2年間は傷病手当金等が貰える(三重県の場合) ということについて書きました。

今回は、妊娠出産に対する公的医療保険の保障内容について書きます。


子供ありきのライフプランを立てる方にとって、出産費用がどれくらいかかるかはとても重要な情報です。

みなさんのライフプラン作りの一助となるべく、妊娠出産費用に関する情報を公開します。

妊娠出産費用に関するデータ

国や自治体から様々な援助によって、妊娠・出産にかかるお金は、第1子の場合約25万円程度に抑えられています。第二子以降はそれよりも若干少なくなります。

まず、平成21年度インターネットによる子育て費用に関する調査 – 内閣府によると、第1子一人当たりの妊娠中の出産準備費(単位:円)は約65,662円です。

ここでいう出産準備費とは、医療機関以外への支払い額のことです。

費目全国平均
妊婦用品・衣料費等44,100
妊娠中の運動・学習、胎教、安産祈願費等15,606
妊娠中の家事サービス費5,956
合計65,662

次に、第1子一人当たりの出産関連費は185,053円です。

ここで言う出産関連費とは、医療機関への支払い額のことで、国・自治体等からの給付を差し引いた実費(手出し)です。

費目全国平均
出産前の定期健診費59,864
分娩・入院費110,894
通院や里帰り出産のための交通費14,295
合計185,053

出産準備費と出産関連費をあわせて約25万円です。

第2子以降は、お下がりが利用できる分、費用が抑えられます。

正常な妊娠出産の医療費には保険証がきかないが、国・自治体等からの援助がある

妊娠や出産はそれが正常なものである限り、それにかかる医療費は公的医療保険の対象ではありません。

妊娠や出産で病院に行っても普通は保険証が使えません。

その代わり国や自治体から様々な援助が受けられます。

先程も言いましたが、データからわかる「出産にかかるお金は、第1子の場合約25万円」というのは、国・自治体等からの援助を差し引いた実費です。

援助を受ける手続きをきちんとしないと、援助が受けられず、自腹を切る金額が増えてしまいます。

ライフプランを立てる時点では、細かい手続手順まで知る必要はないですが、出産費用に関する援助を受けるためには、しかるべき手続きが必要なことだけは覚えておきましょう。

妊婦健診費への援助

ほとんどの市町村では妊娠検診費を助成してくれますが、自治体によってその金額は違います。

例えば横浜市の場合は82,700円です。

妊婦健康診査にご利用いただける14回分の補助券を交付します。(4,700円が11回分、7,000円が1回分、12,000円が2回分となっています)(横浜市 泉区 妊婦健康診査

手続の詳細は妊娠時にお住いの市町村に問い合わせることになります。

出産育児一時金

出産時には、健康保険などの公的医療保険からも、出産育児一時金として、原則として42万円の援助があります。

出産育児一時金は、公的医療保険の被保険者の出産だけでなく、被保険者に扶養されている配偶者の出産にも支給されます。

手続については、加入している公的医療保険に問い合わせることになります。

異常な妊娠出産には保険証が利く

公的医療保険はけがや病気の治療に対して色々と保証してくれるものです。

正常な妊娠や出産は病気じゃないから保険証が使えません。

妊娠や出産については、異常がある場合に限り、公的医療保険から医療費を補償してもらえる(つまり保険証が使える)のです。

治療費の7割が健康保険などから援助される

保険証が使える状態ならば、病院の窓口で保険証を見せるだけで、公的医療保険が診療費用の7割を肩代わりしてくれますので、自己負担額は3割で済みます。

特に手続きは必要ありません。

高額療養費制度で医療費の自己負担額に上限が設定される

医療費の自己負担が3割といっても、治療費が100万円かかるような状態になれば、30万円の負担を強いられることになります。

このような状況にならないでほしいですが、そうならないとは言い切れません。

ところが「自己負担が3割」が高額になってしまう場合に、定められた限度額以上に自己負担が膨らまないようにしてくれる制度があるのです。それが高額療養費制度です。

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次の図は、高額療養費制度によって、医療費自己負担額の上限がどれくらいに抑えられるかをまとめたものです。標準報酬月額というのはおよその月収をいいます。

収入が低いほど医療費の自己負担額が抑えられることが分かります。ありがたいですね。

異常な妊娠出産の事例

異常分娩と正常分娩の区別は、正確には医師の判断を待つしかないのですが、おおよその目安は有ります。

以下の状況であれば、異常分娩と判断される可能性がかなり有ります。

子宮外妊娠

子宮外妊娠は放置すると死亡の恐れもある妊娠異常です。

妊娠した胚(胎児)が、正常の子宮の内腔ではなく、卵管内、卵巣、腹膜、子宮頸管内などに定着(着床と呼びます)して発育し、周囲の組織を破って突然出血することで症状が現れます。大量に持続性出血が起きますので、輸血が必要となることも多く、手術が遅れれば出血性ショックで死亡する危険もある病気です。(関西医科大学附属枚方病院

妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)

妊娠20週~分娩後12週にかけて高血圧となる異常で、妊婦の5%程度がかかります。重症化すると危険です。

重症になるとお母さんには血圧上昇、蛋白尿に加えてけいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、肝機能障害に溶血と血小板減少を伴うHELLP症候群などを引き起こすことがあります。(妊娠高血圧症候群:病気を知ろう:日本産科婦人科学会

切迫流産・切迫早産

切迫流産・早産とは、流産・早産一歩手前の状態です。早めに処置すれば妊娠継続が可能な状態です。安静が一番の治療法ですが、子宮口の縫合手術が行なわれる事もあります。

自覚症状が無い場合もありますが、下腹部に張りや、軽い痛みを感じたり、少量の出血があったりします。(切迫流産・早産 ~大阪市立大学大学院医学研究科 産科婦人科学

その他

  • 死産・流産
  • 前置胎盤
  • 帝王切開
  • 吸引分娩
  • 早期破水

人工妊娠中絶も健康上必要なものなら保険診療の対象となる

母体保護法によると、人工妊娠中絶は本人と配偶者(いる場合に限る)の同意を得ていれば、以下の場合に可能です。

  • 身体的理由(医学的理由)による母体保護のための中絶
  • 経済的理由による中絶
  • レイプによる妊娠の中絶

このうち自己負担が3割で済むのは身体的理由によるものだけです。

経済的理由による中絶は保険適用とはなりませんが、妊娠85日目以降であれば、出産手当金や出産育児一時金の支給対象になります。

レイプによる妊娠の人工中絶は、保険適用とはなりませんが、警察から費用が支援されます。

その他の妊娠出産時に利用できる給付

妊娠出産時にかかる医療費を直接補助するものではないですが、妊娠出産時に受けることができる可能性のある、給付金をまとめてみます。

出産手当金

健康保険などに加入する給与所得者の方が出産する場合に、産前42日から産後56日までの範囲内で、仕事を休んだ期間を対象として支給されます。

本来の給料の三分の二に当たる金額が給付されます。

専業主婦の方や自営業者の方は、残念ながら、給付の対象とはなりません。

病気休暇・傷病手当金

切迫流産等になると出産日のだいぶ手前から仕事を休まざるを得ません。

そうなると休みの大部分については、出産手当金の支給対象期間から外れるために、出産手当金が支給されないことになってしまいます。

こんな時には、出産手当金の代わりに、傷病手当金が支給されることがあります。支給金額も出産手当金と同水準です。

病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

また、職場によりますが、有給の病気休暇の取得が認められるケースもあります。3か月とか6か月など一定期間、給料を受け取りながら休むことができます。

公務員や大企業の従業員は病気休暇や傷病手当金が充実しています。

なお、傷病手当金も、健康保険などに加入する給与所得者の方だけが対象となる制度です。

専業主婦の方や自営業者の方は、給付の対象とはなりません。

次回からは…

差額ベッドの話をします。差額ベッドについて知っていると、それだけで入院に関するお金の悩みは少なくなります。


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