連載:医療保険は不要 第16回です。
前回は、先進医療について書きました。
今回は、患者申出療養という、先進医療に似たシステムについて書きます。
患者申出療養とは?
患者申出療養は、先進医療と同様、まだ保険適用となっていないような高度な医療技術を用いた治療で、国が指定しているものです。
先進医療は、医療機関などが申請した診療を国が指定したものです。申請手続は患者ではなく医療機関の主導で行われます。
それに対して、患者申出療養の申請手続きは、患者自身の強い希望をきっかけに行われます。
これが先進医療との違いですね。
申出手続きの流れ
患者申出療養の申請手続きをもう少し詳しく見てみましょう。
患者申出療養として実績のない治療法については、以下のような手続きを踏みます。
- 一定レベル以上の病院に対して、患者が自ら受けたい治療法を申し出る。
- 病院が、安全性・有効性・実施可能性について検討し、患者の自らの意志でその治療法を希望したことを証明する書面を添えて、国に申請。
- 原則として6週間程度で国が治療実施の可否を判断
- 患者からの申出を受けた病院で治療
一方、患者申出療養としてすでに実績のある治療法についての手続きは、以下のように簡素化されます。
- 患者が自ら受けたい治療法を申し出る先は身近な医療機関でも可。
- 患者から申し出を受けた病院は、国ではなく治療実績のある病院に対して申請。
- 原則として2週間程度で治療実施の可否が判断される
- 身近な医療機関で治療することも可。
2016年10月に患者申出療養の第1例目が実施された模様
患者申出療養の第1例目が条件付きで承認され、2016年10月にも東大病院で実施される運びとなりました。
治療内容は、胃がんが腹膜に転移して腹膜播種となった患者に対して、抗がん剤パクリタキセル等を腹腔と静脈への投与し、抗がん剤S-1の内服と組み合わせるもので、8か月間の治療が予定されています。
自己負担額は、保険適用分(3割自己負担)が444,000円、保険適用外(10割自己負担)となる部分が446,000円と、そこまで高額ではないです。
詳細は厚生労働省のページからご覧ください。
患者申出療養による患者のメリット
先進医療には、病院の規模、医師数、専門医数、治療実績など厳しい基準があります。そのため限られた大病院でしか受けることができませんでした。
一方、患者申出療養は、比較的身近な医療機関でも受けることができる可能性が高くなります。
治療法の選択肢が広がるのが患者申出療養のメリットです。
患者のデメリット(懸念事項)
まだ制度が始まって間もないですが、患者申出療養については、識者から様々な懸念が表されています。
医薬品や医療機器が保険承認されなくても商売として成り立つようになる
医薬品や医療機器は、保険診療の対象とならないと商売にならないのが普通です。
しかし、患者申出療養として未承認の薬や医療機器が販売できるようになると、話は違ってきます。
手間暇かけて保険承認を勝ち取らなくても、製薬会社や医療機器メーカーは十分に商売ができるようになります。
そうなると、保険承認されていない医薬品や医療機器が増えて、患者負担が増加します。
我々が危惧しているのは、患者申出療養制度によって未承認の医薬品や医療機器を使うことが、保険承認されるまでの一時的なものではなく、通常の状態になってしまうことです。(「患者申出療養制度は、がん患者にとって問題の多い制度」:がんナビ)
必ずこうなるという話ではなく、あくまで予想や懸念の範疇です。しかし少々心配です。
素人である患者が合理的な判断ができるのか
患者申出療養は患者自らが申し出る形をとるのですが、素人である患者が合理的な判断ができるのかという問題もあります。
また、患者申出療養は、評価療養として行われる先進医療に比べると、実施の基準が緩いと言わざるを得ません。
その結果、患者申出療法の安全性や有効性は、先進医療と比べて低いレベルになってしまう危険もあります。
患者申出療養は超高額になりかねない
費用が超高額になる可能性があるのは、大きなデメリットです。
難病の代表選手は「がん」ですが、がん治療薬は高額です。
国内未承認のがん治療薬(今年8月17日現在)の7割以上は、1カ月当たりの治療費が100万円を超え、月700万円以上掛かる薬もあります。(「患者申出療養制度は、がん患者にとって問題の多い制度」:がんナビ)
月700万円の治療費を捻出できる人は限られるでしょう。
国立がんセンターがシミュレーションした、未承認薬を用いた場合の、患者自らが支払う医療費(モデルケース)によると、未承認薬が患者申出療養となったところで、患者の自己負担はあまり軽減されません。
経済的に厳しい患者にとって、未承認薬が患者申出療養として認められても、たいして嬉しくありません。
それに対して、未承認薬が保険診療として採用されると、患者の負担は劇的に軽くなります。
「患者申出療養ではなく保険診療として認めてほしい」というのが、大多数の未承認薬利用患者の気持ちだと思います。
患者申出療養を利用するなら、医療保険を見直したほうが良い
いろいろと問題点も指摘される患者申出療養ですが、保険診療の範囲で万策尽きた難病患者にとっては、最後の頼みの綱になるでしょう。
しかし、治療費は高額になりがちですし、高額療養費制度の対象でもありません。
私は、治療法を保険診療の範囲に限るなら、民間保険会社の医療保険はどれも使うつもりはありません。
しかし、先進医療や患者申出療養を利用するなら話は別です。
「難病に侵されたら、保険診療の枠を超えて、あらゆる治療を受けたい」と心に決めていらっしゃるなら、医療保険を見直し、先進医療や患者申出療養を保障するものに乗り換えるべきですね。
患者申出療養に対応する医療保険商品
というわけで、患者申出療養に対応できそうな医療保険商品を探してみましたが、あまり見つかりませんでした。
これは、1回の療養につき1,000万円が限度のようです。これでは月に700万円ほどもかかる治療に対応するには心もとないですね。
この二つは、入院治療費は無制限ですが、通院治療費補償の上限が1,000万円です。がん保険なので、もちろん「がん治療限定」という条件もつきます。
ここで取り上げた3つとも、入院しないままに抗がん剤治療を患者申出療養として受けた場合は、補償の上限は1,000万円となりますね。。。
これでは、月700万円かかる未承認薬治療など保険があっても手が出ません。
先進医療・患者申出療養・自由診療に対応する保険って、安心を得るには程遠い補償内容のものしかないですね。。。
そもそも保険は人生におけるリスクの一部しかカバーしないものですし、その意味で「ザル」で当然です。
でも、先進医療・患者申出療養・自由診療に対応する保険は、ちょっとザルの目が粗いんではないでしょうか。
我が家としては、今のところ患者申出療養は積極的には利用しません
我が家では、保険診療で打つ手が無くなったら、先進医療とともに患者申出療養を利用したいという気持ちはあります。
しかし、今のところは保険が頼りにならないので、月700万円の未承認薬治療なんてとても手が出ません。
良い保険が出るまでは、先進医療・患者申出療養については、自己資金で対応できる範囲でしか使えないということになりそうです。
患者申出療養を利用するかどうか考えておいたほうが良い
ここまで我が家の話をしてきましたが、皆さんは患者申出療養にどう対応されますか。
どう決断しても、それは価値観の問題ですから、全て正解です。
大事なのは決断することです。ダメなのは、何も考えず、何も決めないことです。
態度を決めないことには、保険その他、将来のライフプランを決めることもできません。
先送りせずに、なにがしかの結論を出されることを、強くお勧めします。