HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

医療保険は自宅療養や自宅介護を保障してくれない

連載:医療保険は不要 第33回です。

前回は、医療保険の入院日数の数え方と支払限度日数 について書きました。

今回は、ケガや病気になっても自宅療養や自宅介護となる場合は医療保険はほとんど何もしてくれないという話です。

医療において「入院から在宅へ」の大きな流れがある中、自宅療養や介護にかかる費用を支援してくれない医療保険は、価値が下がってきています。

医療保険は入院保険。自宅療養や介護に対して冷たい

医療保険はその名の通り医療に対して掛ける保険です。

しかし、医療保険が全ての医療費をバックアップしてくれるわけではありません。

医療保険は、主として入院保障と手術保障からなることが多く、自宅療養の費用を保障しないことが多いです。

自宅療養では給付金が貰えない事が多いです。

例えば、長期療養が必要な病気になったものの、医者から「自宅で絶対安静にしておきなさい。」と言われたとしましょう。

この場合、入院は全く無く、完全に自宅療養となります。

自宅療養でも、定期的に通院したり自宅で訪問看護を受けたりする費用がかかります。

しかし、医療保険からは給付金が降りないことが多いです。

なぜなら入院していないからです。

そんな医療保険に加入する価値は有るんでしょうか?

(注)通院に給付金が降りるケースがありますが、一部の症例に限られることが一般的です。

介護を受けても給付金は出ない

また、病気やケガが原因で自宅療養となり、介護が必要になるケースも有るでしょう。

場合によっては介護施設に入所するかも知れません。

しかし介護を受けても医療保険からは全く給付金が降りません

なぜなら(病院に)入院していないからです。

そんな医療保険に加入する価値は有るんでしょうか?

長期療養でも入院させずに在宅療養とする流れ

おまけに今、日本の医療では、入院から在宅療養へのシフトが大々的に展開されています。

入院日数の変化は以下のグラフの通りです。


厚生労働省の平成26年患者調査「退院患者の平均在院日数」 より

グラフのもとになった表はこちら(表の中の小数の単位は日)。

年とともに入院日数がかなり減ってますね。30代以上は、15年間で各年代とも3割以上減ってます。

在宅療養の推進は国策として行われている

在宅療養の推進は厚生労働省と財務省による国策です。

財務省と厚生労働省は(中略)団塊の世代が75歳以上になる超高齢化社会を前に、効率的な医療・介護の体制を整える。両省は入院から在宅へ誘導する考えだが、社会保障給付費の抑制にどこまでつながるか。持続可能な社会保障制度に向け調整を急ぐ。

入院から在宅へ 6年に1度の医療・介護の同時改定:日本経済新聞2017/10/25

自宅療養の増加は医療の効率化の文脈で語られがちですが、それだけが理由ではありません。

高齢者の尊厳の保持と自立生活を支援してQOL(生活の質)を維持向上させるという観点からも、入院から在宅療養へのシフトは推進されています。

厚生労働省においては、2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

地域包括ケアシステム(厚生労働省)

誰だって入院せずに済むものなら入院したくありませんよね。

厚生労働省による「在宅医療・介護の推進について」によると

  • 60%以上の国民が「自宅で療養したい」
  • 4割超の国民が、要介護状態になっても自宅や子供・親族の家での介護を希望

という実態があります。

自宅療養が増えているのは、患者のお金の問題というよりは、慣れ親しんだ環境を希望する患者の意思に沿うものという側面があります。

入院せずに在宅療養とするだけで患者のQOLは大いに向上します。

自宅療養を保障しない医療保険はますます魅力がなくなる

ところで、在宅療養が中心になる場合に医療保険は役に立つでしょうか?

役立ちませんよね。医療保険からは全く給付金が降りません

なぜなら入院していないからです

そんな医療保険に加入する価値は有るんでしょうか?

療養の中心が入院から在宅療養に移っていくと、入院保障中心の医療保険はどんどん役立たなくなっていきます。

自宅療養の費用は、貯蓄か借入で賄うしか無い

ケガや病気に備えるなら、入院と自宅療養の両方に備えなければいけません。

医療保険は入院費用を保障しますが、自宅療養にかかる費用は全く出してくれません。

ケガや病気にかかる費用を保険で賄おうとすると、いざ助けてほしいときに助けてくれないということになりがちです。

ケガや病気にかかる費用は貯蓄で準備するべきです。それが無理なら借入で準備して下さい。

お金がないのに無理して保険に入るようなことは、絶対に避けて下さい。

老後の自宅療養費用は貯蓄で賄うしかない

ケガや病気の費用を貯蓄か借入で用意しようという話をしましたが、借入は年をとると厳しくなります。

したがって、老後のケガや病気に備えるための資金は、貯蓄で用意するしか無いということになります。

高齢になれば病気になる確率は高くなり、医療を受ける機会は増える。その時、頼りになるのは、「入院しないと受け取れない」という使い道が限定された保険ではなく、医療費の自己負担を賄える現金(預貯金)だ。

高齢者医療の流れは「入院から在宅へ」その時、人気の終身型医療保険は役に立つか!? | 知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴 | ダイヤモンド・オンライン

老後のケガや病気が不安なら、

  • 貯蓄する
  • 運用して増やす
  • ケガや病気でも絶たれない収入源を確保する

というような対策をするべきです。こういった手段でケガや病気対策の資金を準備することができれば、ケガや病気以外のリスクにも対応できて一石二鳥です。

繰り返しますが、老後の不安に負けて終身医療保険に入るのは、お勧めしません

老後のケガや病気が不安だからといって終身医療保険に入ってはいけません。計算上、貧乏への第一歩です。

老後資金が不安な人が終身医療保険に加入するのは絶対にやめて下さい。

お金が有り余っている人が、計算上は大損であることを承知で加入するのなら、それは一種の贅沢な消費ですから止めはしませんが。

入院しか保障しない医療保険は、収入減少をカバーしてくれない

医療保険の保障範囲は一般に以下のとおりです。

自宅療養入院療養
働ける保障なし保障される
働けない保障なし保障される

何度も言いますが、医療保険は入院しか保障しません。ケガや病気による収入減少についても、入院しない限りカバーしてくれません。

一般に、現役で働いている人がケガや病気になると、医療費そのものによる打撃より、収入減少によるダメージのほうが大きくなるものです。

自宅療養中の収入減少を保障しない医療保険は、 ケガや病気に備えるにはあまり適切ではないと言えるでしょう。

収入減少をカバーするなら所得補償保険や就業不能保険が良い

病気やケガで働けない間の収入減少をカバーするなら、医療保険ではなく、所得補償保険や就業不能保険が良いです。

所得補償保険や就業不能保険の補償範囲は、一般的には以下のようになります。

   自宅療養入院療養
働ける保障(補償)なし保障(補償)なし
働けない保障される保障される

働けない状態なら、補償または保障が得られるわけです。

しかし「いい保険だ!」と言って飛びつくのはまだ早いです。

保障や補償の範囲に注意

所得補償保険や就業不能保険では、「働ける」状態が著しく広く定義されていることがあります。

言い換えると、保障・補償の対象となる「働けない状態(就業不能状態)」が著しく小さくなっていることがあるわけです。

例えば、「働ける」状態の定義が、次のようになっていることがあります。

働ける=座業や梱包・検品等の軽労働や事務等の座業が可能

これだと「PC入力可能なら、働けるから補償や保障の対象外」と言われそうですよね。もしそうなら、在宅療養のほとんどは保障(または補償)されないことになります。

実際の運用は各保険商品ごとに問い合わせないと分かりませんが、ちょっと心配ですよね。

団体保険から検討してください

所得補償保険や就業不能保険を選ぶ場合も、まずは、団体保険から検討するのが鉄則です。

一般の保険商品を検討するのは、団体保険の検討が終わってからです。

我が家でも、公立中学教師である妻が長期療養するケースに備えて、次の所得補償保険に入っています。

ロングウェイサポート|福祉事業|日教弘会員の皆様|日教弘 – 公益財団法人 日本教育公務員弘済会

これは教職員限定の団体保険で、「PC入力可能なら、働けるから補償や保障の対象外」とは言われません。

たとえ働けるにしても、健康を害したことによる収入減少が生じていれば、その部分をある程度補償してくれます。

補償されるのは60歳までですけどね。

皆さんも、よい団体保険をお探しください。教員でなくても、公務員なら、似たような団体保険があると思います。


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