HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

【高齢者の長期入院費用】病室料金の自己負担分は重いけど、若い時の長期入院ほどダメージはない

連載:医療保険は不要 第28回です。

前回は、終身医療保険は途中で解約しにくい~サンクコストの呪縛 でした。

今回は、老後の長期入院費の自己負担について書きます。

2016-11-14-hospital_room_ubt
入院中の食費の自己負担について調べるうちに、健康保険法第八十五条が気になりました。

65歳以上の高齢者が長期入院すると、病室料金の自己負担が重くなるのです。

長期入院時の病室料金に限れば、若い人より高齢者の負担の方が重いのです。

とは言え、病室料金の自己負担は、若い時の長期入院による就業不能ダメージに比べれば、たいしたことはありません。

介護保険施設入所者と特定長期入院被保険者の負担が公平になるように作られた仕組み

介護保険施設入居者の食費(食材料費+調理費相当)は、原則として、公的医療保険からの給付の対象外(自己負担)です。
self pay nursing home residents meal 

介護保険施設入居者の居住費(水道光熱費相当)も、原則として、公的医療保険からの給付の対象外(自己負担)です。
self pay nursing home residents room

長期入院患者は、介護施設入居者と同様、病院で暮らしているような状態です。

長期入院患者にも食費(食材料費+調理費相当)及び居住費(光熱水費相当)を自己負担させないと、介護保険施設入居者との間で不公平が生じます

そこで、長期入院患者にも食費(食材料費+調理費相当)及び居住費(水道光熱費相当)を負担させるべく誕生したのが、入院時生活療養費という仕組みです。

介護保険施設に入所するのは大抵65歳以上の方なので、入院時生活療養費の対象も65歳以上の長期入院患者(特定長期入院被保険者)となりました。

このあたりのことは、医療・介護を通じた居住費負担の公平化について|平成27年11月20日-厚生労働省等の文書で、再三書かれています。

65歳以上で長期入院すると、1日当たりの病室料金と食費だけで1700円以上かかる

特定長期入院被保険者の、食費と病室料金の自己負担額が一体どれくらいなのか計算したところ、1日当たり1700円となりました。

1か月で5万円強です。

かなり高いですよね。実際の入院ではこれらに加えて、公的医療保険の給付対象である保険医療サービスの自己負担分(最高で3割)も払わないといけないわけですから。

食費部分(1食分)

「入院時にかかった実際の食費」と「国の定めた基準額(2015年現在は554円)」のうち、より低いほうの金額と460円との差額が、食費部分の入院時生活療養費(1食分)となります。

460円というのは、介護保険施設で入居者が負担する食費や、総務省の「家計調査」等を考慮して、平均的な家計における1食分の食費(食材料費+調理費相当)としてとして国が決めた金額です。

この460円が生活療養標準負担額(食費部分、1食当たり)となり、長期入院患者が自己負担する部分になります。

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居住費(病室料金)部分(1日分)

「入院時にかかった実際の居住費(病室料金)」と「国の定めた基準額(2015年現在は398円)」のうちより低いほうの金額と、320円との差額が、居住費(病室料金)部分の入院時生活療養費(1日分)となります。

320円というのは、介護保険施設で入居者が負担する水道光熱費や、総務省の「家計調査」等を考慮して、平均的な家計における1食分の食費(食材料費+調理費相当)としてとして国が決めた金額です。

この320円が生活療養標準負担額(居住費部分、1日当たり)となり、長期入院患者が自己負担する部分になります。

self pay hospital residents room

一日当たりの自己負担額は1700円

一日当たりの自己負担額は、食費部分と居室部分の生活療養標準負担額を合計すれば求められます。計算すると1700円(=320円+460円×3食)です。

65歳を超えて長期入院をすると、大した医療を受けなくても、一月あたり約5万円の出費を覚悟しないといけません。

高額療養費制度の対象とはならないので、民間医療保険について検討する時は、是非とも頭に入れておきたい数字です。

とは言え、高齢者の長期入院は若い人の長期入院よりもダメージは少ない

高齢になってから長期入院すると、若い時の長期入院に比べて、病室料金の自己負担は重くなります。

しかし、長期入院によるダメージ全体で比べれば、収入が年金のみの高齢者より若い人の方がダメージが大きくなります。

高齢で収入が年金のみの方が長期入院をしても、就業不能によるダメージはありません。普段働いていないわけですから当たり前ですね。

一方、若い人が長期入院すると、普段の勤労収入をすべて失います。就業不能によるダメージが大きいです。

病室料金の自己負担があったとしても若い人が失う勤労収入に比べればたいしたことはありません。

医療保険について考える際には、若い時の入院によるダメージと、年老いた後の入院によるダメージを、同列に比べてはいけません。

付録・用語の意味

特定長期入院被保険者とは?

健康保険法第六十三条第二項第一号に以下のくだりが有ります。

医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第七条第二項第四号 に規定する療養病床(以下「療養病床」という。)への入院及びその療養に伴う世話その他の看護であって、当該療養を受ける際、六十五歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者(以下「特定長期入院被保険者」という。)

つまり、

特定長期入院被保険者=65歳以上療養病床に入院する患者

です。

療養病床とは?

ところで療養病床とはなんでしょう。医療法第七条第二項によって病床は5種類に区分されています。そのうち

  • 精神病床(精神病患者用ベッド)
  • 感染症病床(感染症予防・治療用ベッド)
  • 結核病床(結核患者用ベッド)

についてはとてもわかりやすいですね。

これらに該当しないその他のベッドが、療養病床と一般病床に区分されます。

医療法第七条第二項第四号に

療養病床(病院又は診療所の病床のうち、前三号に掲げる病床以外の病床であつて、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)

という記述があるので

療養病床=長期入院患者用のベッド

ということでOKですね。

ちなみに、一般病床については、医療法第七条第二項第四号に

一般病床(病院又は診療所の病床のうち、前各号に掲げる病床以外のものをいう。以下同じ。)

と書かれていますから

一般病床=短期入院患者用のベッド

です。

長期入院とは?

公的医療保険で言う長期入院は、多くの場合、90日以上の入院を指します。

しかし、全てのケースで「90日以上」が基準になるわけではありません。

また、民間保険では、保険会社ごと、商品ごとに、長期入院の定義が異なります。

加入している保険ごとに契約書で確認するより他ありません。


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