HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

保険で貯蓄をするデメリットは保険会社倒産時のダメージが大きいこと

保険会社も通常の会社と同様に破たんします。次の図は保険会社破綻時に貯蓄型保険の保険金がどれくらい削減されるかを表したものです。sekininjunbi-2016-05-03-1

破たん保険会社の貯蓄型保険契約者を保護する仕組みとして生命保険契約者保護機構があるのですが、証券会社や銀行の破綻に備えた契約者保護の仕組みに比べると著しく貧弱です。

学資保険や個人年金保険などの貯蓄性保険を契約するなら、このデメリットをよく頭に入れて、他の資産運用商品との比較を行う必要があります。

生命保険契約者保護機構の問題点:契約者保護はとても貧弱

生命保険会社が破たんする前には、ソルベンシーマージン比率の低下によって早期是正措置が発動されます。

ここで破たんが回避できればいいですが、できなかった場合は生命保険契約者保護機構の出番です。

破たん処理に際しては保険契約者保護基金から資金が投入されます。

しかし、それでも破たんした生命保険会社の抱えていた損失をすべて埋めるというわけにはいきません。

  • 責任準備金のカット
  • 予定利率の引き下げ
  • 更生計画決定後の早期解約控除

など、保険契約者に痛みを強いる処置も行われます。

破たん時点における責任準備金の補償割合は90%

保険会社が破たんすると会社の更生計画が立てられます。

更生計画は一般に債権者の債権の金額を引き下げる内容になります。責任準備金も削減されることになります。

貯蓄性保険の場合、責任準備金は、通常、契約時から満期時に向かって右肩上がりに増えていきます。

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この途中で破たんが起こると、更生計画が決定されるまでの間、責任準備金がどれだけ削られるかはわからないのですが、生命保険契約者保護機構が責任準備金の90%までは補償してくれます。つまり10%の削減です。

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保険会社が倒産してから更生計画が決定されるまでの間に保険金が支払われる場合、保険金は従来の90%の水準まで削られます。

予定利率が基準利率(3%)を超える契約は、高予定利率契約とされ、90%を下回る水準しか補償されません。

補償対象となる保険契約

生命保険契約者保護機構の補償対象は、再保険を除く国内の元受保険契約です。財形貯蓄積立保険なども保護対象になります。銀行窓口で販売されて保険ももちろん補償対象です。

最低保証(最低死亡保険金保証、最低年金原資保証等)の付されていない変額保険など、運用実績連動型保険契約の特定特別勘定部分は補償の対象外です。

また、全労済や都道府県民共済などの各種共済や、少額短期保険業者、特定保健事業者の引き受けた保険契約は、生命保険契約者保護機構の保護の対象とはなりません。

ただし、他のセーフティーネットが用意されていることがありますので、共済などに加入した時はその時によく確認しておかないといけませんね。

Q3. 加入しているJAが破綻した場合、契約はどうなりますか? 共済契約をJAとJA共済連が共同でお引き受けすることにより、ご契約者の皆さまの保障を継続しております。  JAおよびJA共済連は、健全な事業運営に努めておりますが、仮に、窓口となっているJAの経営が困難になり破綻するような場合でも、共済契約は他のJAとJA共済連が共同して、またはJA共済連が単独でお引き受けすることにより、保障を継続してまいります。(JA共済の特長やご加入条件に関する質問|JA共済

予定利率も引き下げられるため保険金の削減幅は10%では済まない

生命保険契約者保護機構が責任準備金の90%を補償してくれるのは、保険会社の破たんから更生計画ができるまでの間です。

更生計画ができれば通常は責任準備金がさらに削減されることになります。

生命保険会社破綻時の更生計画では、保険契約で約束されていた予定利率等の保険料算定基礎率も見直されるからです。

予定利率が引き下げられると、保険料を従来通りの金額とする限り、将来受け取れる保険金は大きく減ってしまいます。

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保険金の減少幅は破たん保険会社の財務状況や保険種類等により異なりますが、一般に

  • 貯蓄性の高い保険
  • 予定利率が高い時期に契約したいわゆる「お宝保険」
  • 満期までの期間が長い保険

であるほど減少幅が大きくなる傾向があります。

お宝保険は、予定利率が3%をこえる高予定利率契約と呼ばれる契約に該当しますので、そもそも、責任準備金の補償の割合が9割未満になるのです。過去の例では、お宝保険と貯蓄性の高い保険契約の双方に該当する場合、保険金額や年金額が8割も削減された例もあります。(生命保険会社の破たんに備えて対策を立てよう(1) | マネーの達人

一方、掛捨ての保険の場合は、保険金の減少幅は少なくて済みます。

定期保険等の保障性の高い保険(掛け捨て型の保険)の場合、もともと責任準備金の額が少ないため(契約終了時にはゼロとなります)、責任準備金等の削減や予定利率の引下げの影響が比較的軽微で、一般に保険金額の減少幅も小さくなる(または減少しない)傾向があります。

貯蓄性の高い保険契約は、生命保険会社の破綻時に、大きな打撃を受けるのです。

そのうえ早期解約には早期解約控除というペナルティー

保険会社の破たんで責任準備金が削減され、更生計画の決定によって予定利率まで下げられるとなると「破たん保険会社との保険なんて早く解約しようよ」などと思うのが人情です。しかしこれは許されません。

破綻時から更生計画認可決定までの間は、破たん保険会社との間に結んだ保険契約の変更や解約はできないことになっています。

もちろん保険料の支払いも続けないといけません。

更生計画が認可決定された後なら契約内容の変更や解約は自由ですが、今度は早期解約控除というペナルティーが科されます。

「早期解約控除制度」とは
更生計画の認可決定後(または、保険契約の移転後)、解約の急激な請求によって資産が急速に流出してしまうと、更生計画(または保険契約移転計画)の通りに会社の運営を行っていくことが困難となります。できるだけ多くの保険契約者にご契約を継続いただくために、一定期間内の解約のご請求に対し、契約条件変更後の解約返戻金等から更に一定の割合で削減される制度を「早期解約控除制度」といいます。(Q12 生命保険会社が破綻した場合の補償内容はどうなっていますか。|生命保険契約者保護機構)

このように、破たん保険会社との間で契約していた貯蓄性保険商品の資産価値は、破たんによって大きく毀損します。

そもそも各種共済や少額短期被保険者の契約は保護対象とならない

生命保険契約者保護機構は、各種共済や特定保険事業者少額短期保険業者が引き受けた保険契約は保護の対象外としています。

全労済、JA共済、都道府県民共済などには、独自の補償制度がありますけどね。

銀行や証券会社と比べて保険の契約者保護は大きく見劣りする

ここまで、保険会社が破たんした時の契約者保護の話をしてきました。

ここで、銀行が倒産した時の預金保護や、証券会社が倒産した時の資産保護を見てみましょう。

銀行が倒産しても預金は元本1,000万円までと破綻日までの利息が保護される

預金保険で保護される預金等の額は、預金保険による保護の対象となる預金等のうち、決済用預金(無利息、要求払い、決済サービスを提供できること、という3要件を満たす預金)は全額、それ以外の預金等(「一般預金等」といいます)は1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息等です(このように予め決められた範囲内で実際に保護される預金等を「付保預金」といいます。((4)保護される預金等の範囲 : 預金保険機構

今低金利でタンス預金用の金庫が売れているようですが、それなら無利息の決済用預金の方が盗難リスクもなくて安心ですね。

証券会社が倒産しても、預けた資産は分別管理されているので安心

証券会社が、お預りしているお客様の有価証券や金銭などのご資産を、自社が保有する資産と明確に区分して管理することにより、証券会社が万一破綻した場合でも、お客様のご資産が保護される制度のことをいいます。 平成11年4月より、お客様が証券会社へ預けた有価証券や金銭は証券会社自身が保有する有価証券や金銭とは分別して管理することが、金融商品取引法で義務付けられています。(金融商品取引法第43条の2)(野村證券 | 野村の分別管理

この仕組みなら、証券会社に預けた資産は、証券会社が倒産しても青天井で保護されることになります。

また万一の事故に備えて日本投資者保護基金が作られています。

絶対に目減りが許されない資金は、保険会社ではなく銀行か証券会社で運用するべき

保険会社破たん時の契約者保護は、証券会社や銀行が破たんした時と比べて著しく劣ります。

  • 子供の学資に備えた虎の子の資金を学資保険で用意する
  • 虎の子の老後資金を個人年金保険で準備する

このような運用をされている方もいらっしゃるとは思いますが、私はこれには大反対です。

学資保険や個人年金保険を利用するなら、あくまで余裕資金がある場合に、投資と同じようなリスクをとる覚悟で利用するべきだと思います。

付記:掛捨て保険は保険会社破たんのダメージが小さい

貯蓄性のない掛捨ての保険は、責任準備金の金額が貯蓄性の保険に比べて著しく少ないので、責任準備金のカットや予定利率の引き下げによる損害もとても小さくなります。

定期保険等の保障性の高い保険(掛け捨て型の保険)の場合、もともと責任準備金の額が少ないため、責任準備金等の削減や予定利率の引下げの影響が比較的軽微で、一般に保険金額の減少幅も小さくなる(または減少しない)傾向にあります。(ライフネット生命が倒産(経営破綻)した場合、契約はどうなりますか?

そんなこんなで我が家の保険は掛捨てオンリーとなっております。


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