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私の妻のような公立学校の教師には、協栄生命(現ジブラルタ生命)の破たんで、保険契約の保障内容がカットされて痛い目を見た人が大勢います。
民間保険会社の保険商品を選ぶ際には、商品の保障内容も大事ですが、保険会社の財務体質の健全性も同じくらい重要です。
ソルベンシーマージン比率は保険会社の財務体質の健全性を表す指標で、200%以上無いと金融庁からの早期是正措置命令の対象となってしまいます。
国内生命保険会社をソルベンシーマージン比率でランキングするとともに
- ソルベンシーマージン比率に注目すべき理由
- 適正なソルベンシーマージン比率の水準
- 保険会社の実際のソルベンシーマージン比率のデータ
などについてわかりやすく解説します。
国内生命保険会社ソルベンシーマージン比率ランキング
国内生命保険会社を、2018.3月期決算におけるソルベンシーマージン比率(%)でランキングしました。
順位 | 生保会社名 | 2017.3月期 | 2018.3月期 | 2019.3月期 |
1 | みどり | 7,152 | 4,602 | 4,364 |
2 | ネオファースト | 7,637 | 5,250 | 3,134 |
3 | メディケア | 3,988 | 3,191 | 2,816 |
4 | ソニー | 2,569 | 2,624 | 2,591 |
5 | ライフネット | 2,723 | 2,456 | 2,085 |
6 | 東京海上日動あんしん | 2,870 | 2,348 | 2,064 |
7 | アリアンツ | 3,513 | 3,695 | 1,863 |
8 | アクサダイレクト | 2,190 | 1,723 | 1,804 |
9 | オリックス | 1,337 | 1,567 | 1,721 |
10 | 三井住友海上あいおい | 1,893 | 1,727 | 1,682 |
11 | 損保ジャパン日本興亜ひまわり | 1,573 | 1,513 | 1,508 |
12 | 大同 | 1,253 | 1,206 | 1,272 |
13 | 富国 | 1,215 | 1,081 | 1,190 |
14 | かんぽ | 1,289 | 1,131 | 1,188 |
15 | 大樹 | 915 | 1,070 | 1,132 |
16 | T&Dフィナンシャル | 1,296 | 1,258 | 1,102 |
17 | チューリッヒ | 1,316 | 1,234 | 1,065 |
18 | SBI | 1,166 | 1,172 | 1,045 |
19 | FWD富士 | 1,213 | 1,110 | 1,030 |
20 | ニッセイ・ウェルス | 810 | 938 | 988 |
21 | 明治安田 | 946 | 938 | 983 |
22 | フコクしんらい | 921 | 947 | 978 |
23 | ソニーライフ・エイゴン | 987 | 1,626 | 974 |
24 | 第一 | 851 | 882 | 971 |
25 | アフラック | 956 | 1,030 | 961 |
26 | 日本 | 896 | 918 | 933 |
27 | 住友 | 827 | 874 | 930 |
28 | カーディフ | 625 | 629 | 895 |
29 | メットライフ | 957 | 884 | 890 |
30 | 楽天 | 1,262 | 800 | 888 |
31 | 朝日 | 743 | 809 | 861 |
32 | ジブラルタ | 871 | 889 | 857 |
33 | 太陽 | 849 | 835 | 850 |
34 | マニュライフ | 839 | 842 | 844 |
35 | 三井住友海上プライマリー | 1,031 | 993 | 825 |
36 | PGF | 790 | 830 | 824 |
37 | クレディ・アグリコル | 1,958 | 1,393 | 813 |
38 | プルデンシャル | 872 | 817 | 804 |
39 | アクサ | 746 | 781 | 791 |
40 | エヌエヌ | 628 | 780 | 760 |
41 | 第一フロンティア | 577 | 575 | 507 |
ソルベンシーマージン比率が低過ぎると財務の健全性に欠けるので、最新決算におけるソルベンシーマージンが高い順に生命保険会社をランキングしました。
しかし、このランキングで下位になっている会社の財務が本当に不味いかどうかは、ソルベンシーマージンの意味を理解しないと分かりません。
ソルベンシーマージン比率とは
ソルベンシーは英語でsolvency。支払い能力を意味します。
マージンとは英語でmargin。余裕、余地を意味します。
ソルベンシーマージン比率とは、この支払い余力(ソルベンシーマージン)の、通常の予想を超えて発生するリスク総額に対する比率です。
金融庁では以下のように定義しています。
保険会社の「ソルベンシー・マージン比率」とは、保険会社が、「通常の予測を超えたリスク」に対して、どの程度「自己資本」・「準備金」などの支払余力を有するかを示す健全性の指標です。また、ソルベンシー・マージン比率は、保険会社に対して、早めの経営改善を促すための指標となるものであり、同比率が200%を下回ると早期是正措置命令を発動することになります。
つまり、ソルベンシーマージンは、いざという時の保険会社の保険金支払い能力を示す指標です。
ソルベンシーマージンが0未満になると、金融庁から業務停止命令が出ます。
保険会社を選ぶ際にはとても重要なものなのです。
計算式
ソルベンシーマージン比率とは、通常の予想を超えて発生するリスク総額に対するソルベンシーマージン総額の比率です。
A=ソルベンシーマージン総額
R=通常の予想を超えて発生するリスクの総額
SMR=ソルベンシーマージン比率(%)
とすると計算式は
$$SMR=\frac{A}{R}\times100$$
となるべきです。
ところが実際に金融庁が行政監督上の指標として使っているソルベンシーマージン比率の計算式は
$$SMR=\frac{A}{R\times\frac{1}{2}}\times100$$
です。
現実に規制の基準として使われているソルベンシーマージン比率は、通常の予想を超えて発生するリスク総額の1/2に対するソルベンシーマージン総額の比率です。
ソルベンシーマージン比率が200%を下回るとなぜ不味いのか
ソルベンシーマージンが200%を下回ると早期是正措置命令が出されます。なぜ200%が基準になっているかをわかりやすく書きます。
100%しかないと圧倒的に支払い能力不足
金融庁が実際に使っているソルベンシーマージン比率が仮に100%だったとしましょう。
$$100=\frac{A}{R\times\frac{1}{2}}\times100$$
ですから、両辺を100で割って
$$1=\frac{A}{R\times\frac{1}{2}}$$
よって
$$A=R\times\frac{1}{2}$$
これってまずいんですよね。
A=ソルベンシーマージン総額
R=通常の予想を超えて発生するリスクの総額
でしたから、ソルベンシーマージン総額(保険金支払い余力)が「通常の予想を超えて発生するリスク総額」の1/2しかないです。
これでは何かあったら保険会社はすぐにつぶれてしまいます。
200%でも保険金支払い能力はカツカツ
では、ソルベンシーマージン比率が仮に200%だとどうでしょうか。
$$200=\frac{A}{R\times\frac{1}{2}}\times100$$
両辺を100で割って
$$2=\frac{A}{R\times\frac{1}{2}}$$
よって
$$A=(R\times\frac{1}{2})\times2$$
$$A=R$$
保険金の支払い能力がリスクの合計額とぴったり一致します。
「ソルベンシーマージン比率=200%」は、その保険会社の保険金支払い能力がぎりぎりで、お尻に火が付いた状態であることを示します。
保険会社を監督する金融庁としては、ソルベンシーマージン比率が200%を下回った会社に対して早期是正措置命令を出さざるを得ないわけです。
繰り返しますが「ソルベンシーマージン比率=200%」は、その保険会社がぎりぎりの保険金支払い能力しかもっていないことを示します。
200%を少し上回ったくらいではその保険会社を信用するわけにはいきません。
200%以上で破たんした保険会社は複数ある
実際、ソルベンシーマージン比率が200%を大きく上回っていたのに破たんに追い込まれた保険会社は、過去において複数存在します。
金融庁サイト内の破綻会社のソルベンシー・マージン比率とその後の見直しについて-などによると、破たんした保険会社の破たん直前の決算時におけるソルベンシーマージン比率を、現行の計算式によって計算すると以下のようになります。
会社名 | 破綻時期 | ソルベンシーマージン比率 |
---|---|---|
第百生命 | 2000/5 | 175.8% |
大正生命 | 2000/8 | -49.9% |
千代田生命 | 2000/10 | 163.6% |
協栄生命 | 2000/10 | 98.9% |
東京生命 | 2001/3 | 325.5% |
第一火災 | 2000/5 | -74.5% |
大成火災 | 2001/11 | 862.1% |
大和生命 | 2008/10 | 555.4% |
このうち、大成火災は再保険の失敗という特殊事情なので、800%でも安心できないということではありません。
私は600%以上あれば安心することにしています。
とはいえ比率が高すぎるのも問題
我々消費者から見て、保険会社に求める条件の第一は、破たんしないことです。
破たんする可能性を低くするという意味では、ソルベンシーマージン比率は確かに高いほうがいいです。
しかし、破たんしなければそれでいいというわけでもありません。支払った保険料に見合う保障をしてくれないと困ります。
ソルベンシーマージンを高く保つために、保険金の水準を切り下げるような会社は好きにはなれません。
以前に金融庁の「ソルベンシー・マージン比率の算出基準等に関する検討チーム」でも、以下のような問題提起が行われています。
ソルベンシー・マージン比率が何%程度あれば適正な水準と考えているのか。高ければ高いほどよいという風潮もあるが、経営の効率から考えて高すぎるのも問題がある。そのような水準があるとすれば、ソルベンシー・マージン比率以外の観点で評価しているのか。あるいは他社との相対感なども影響しているのか。
これに対する識者の答えでこんなのがありました。
ターゲットは500%としている。責任準備金のリスク対応力が高いため、500%はかなり高い水準と考えている。明確な根拠があるわけではないが、資本効率をよくするという観点と営業的観点から他社との比較の観点を考慮した水準である。
最近は大手生保を中心に、1000%越えの高ソルベンシーマージン比率を誇る保険会社もありますが、保険加入者への補償を必要以上に切り詰めることで達成しているなら、我々消費者にとっては大問題です。
また、このような意見もあります。
ソルベンシー・マージン比率は、大きければ良いというわけではありません。 というのは、保有しているリスク(契約高が少ない場合や、ガン保険や変額保険などに特化している場合)が少ない場合、ソルベンシー・マージン比率が大きくなってしまう傾向が強いからです。(生命保険コンサルタント)
ソルベンシーマージンは高ければいいというものではありません。また、これくらいあれば絶対大丈夫と言い切れるものではありません。大丈夫な確率は上がりますが…。