HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

海外旅行保険の選び方~治療費無制限補償と持病補償はあったほうがいい【サイパン旅行の反省】

連載:医療保険は不要 第35回です。

前回は、差額ベッド代を賄うには医療保険は力不足 だということについて書きました。

連載では「医療保険は不要だ」といい続けてきましたが、私が敢えて加入する医療保険を紹介します。

今回は、海外旅行保険について話します。

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2015年末、私はサイパンへ旅行しました。クレジットカード自動付帯の海外旅行保険しか掛けていませんでした。

運悪く現地で腹痛を起こしてしまい、「医者にかかる羽目になったどうしよう」冷や汗をかきました。

海外旅行の前には、治療費無制限補償と持病補償が付いた海外旅行保険に入っておかないと、不安でたまりません。

外国の医療費は高額・特に米国で病気になると大変

外国の医療費は日本では考えられないほど高額で、特にアメリカはひどいです。サイパンもアメリカの一部です。

救急診察料 170USD~,救急診察室使用料 69USD~,ICU使用料 2,550USD/泊,一般病室使用料 2,100USD/泊(個室),救急車使用料 150USD(基本料金)+50USD/マイル(外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(サイパン)

サイパンでは入院すると病室料金だけで一泊20万円以上かかります。アメリカ国内他地域の状況を参考までに見てみると、

医療費は日本に比べ非常に高額で,ICUへの入院や手術となると1,000万円を超えることも稀ではありません。(外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(ホノルル))

1000万円ですか…

入院を必要とする際には数万ドルの保証金を請求されることがあります。集中治療室(ICU)に入院した場合は,1日当たり概ね1万ドルの医療費請求は普通です。1,2週間の治療で数十万ドルの医療費を請求されることがあります(外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(マイアミ)

数十万ドルといえば数千万円ですね…

病気や怪我など1回の入院で数百万円から1千万円になることを覚悟してください。(外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(ニューヨーク)

ニューヨークって色々怖いですね…。

保険に入らないままアメリカで手術するような病気になると破産しかねません

そこまでいかなくても「海外旅行中に病気になって人生計画狂いました」くらいはあり得ますよね。

保険証がきかないので全額自己負担

海外で病院にかかると一旦治療費の全額を払わないといけません。

窓口で保険証を見せて自己負担3割で診療を受ける、というわけにはいかないのです。

アメリカで保険なしで入院したら、退院時に数千万円の治療費全額の支払いを要求されるケースがありえますね。

金の切れ目は命の切れ目

しかし、実際には、退院時どころか、入院前からお金を要求される場合すらあります。入院時に保証金の供託を要求されるんです。

病院からすれば、コストをかけて治療した後、退院時になって「支払い能力がありません」と言われたら大変だからです。

海外で病気になると「金の切れ目は命の切れ目」です。

帰国後に公的医療保険から海外療養費が支給されるけど…

海外で自己負担した医療費に対しては、日本に帰国後に、公的医療保険から海外療養費を支給してもらえます。

しかし、海外療養費はいろいろと不便で不十分です。

金額が全く不十分

海外療養費は、海外で実際にかかった医療費と、日本で同等の医療を受けた場合にかかる費用とを比べて、金額が少ないほうの7割が支給されます。

ですから、海外療養費が支給されても自己負担割合が3割で済まないケースがあります。

医療の価格が日本より安い国で医療受けた場合は自己負担が3割で済みますが…

現地での医療価格が日本より安い場合は、現地で実際に支払った額の7割が公的医療保険から海外療養費として支給されます。

この場合、自己負担割合は3割で収まります。

医療の価格が日本より高い国で医療を受けた場合の自己負担はとても大きい

一方、医療の価格が日本より高い国で医療を受けた場合、公的医療保険から支給される海外療養費は、現地で実際に支払った額の7割とはなりません。

この場合、自己負担割合は3割では済みません。

海外で受けた医療が、日本なら比較的安価に受けられるのに現地ではかなり高額であるという場合、自己負担が想像以上に膨らんでしまうことがあるのです。

アメリカで盲腸の手術をした場合の海外療養費の支給

アメリカで虫垂炎(盲腸)になった場合を考えてみましょう。

アメリカは医療費が高額な国として有名で、ニューヨーク近郊で虫垂炎の手術を受けると約300万円かかります。

一方、日本で虫垂炎の手術を受けた場合、費用総額は50万円程度です。

海外療養費として支給される金額は、日本で虫垂炎の手術を受けた場合にかかるコスト約50万円の7割に相当する約35万円です。

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自己負担は265万円となり、自己負担割合は8割以上にも達するのです。

この例では高額療養費制度適用前の自己負担を考えていますので、所得水準によっては自己負担はもう少しだけ下がります。

しかし、日米の医療費の差額にあたる250万円については、どう転んでも自己負担となります。

申請手続きが煩雑

海外療養費の請求手続きは、一般的な日本人にとってハードルが高いです。

手続きには海外で医療を受けたことを証明する書類が必要です。

  • パスポートの写し
  • 診療内容明細書(レセプト)や領収明細書、またそれらの日本語訳

海外でお医者さんにかかって自腹を切ったなら、忘れずに必要書類を整えておきましょう。…と言うのは簡単なのですが、現地語で医者と交渉して必要書類を用意してもらうなんて、私にはハードルが高いです。

支給対象が限られている

海外療養費の支給対象は、日本国内であれば保険診療となるものに限られます。

美容目的の整形などは海外療養費の支給対象とはなりません。

また、最初から病気の治療を目的に海外の医療機関に行った場合も、海外療養費の支給対象とはなりません。

海外療養費の支給は、あくまでも「海外でたまたま病気やけがになって診療を受ける必要が生じた場合」に限られます。

海外旅行保険は入ったほうがいい。その選び方はどうするか

海外の医療費は高額なのに、公的医療保険からの補償は十分ではありませんから、民間の保険で備えなければなりません。

海外旅行保険に入っておけば、現地でキャッシュレスで医療を受けられます。

しかし、格安保険を大喜びで契約すると、補償がもの足りずに後で泣きを見ることがあります。

安いものばかり探そうとして、補償内容を削り過ぎないように気を付けてください。

治療費無制限補償の海外旅行保険に加入するべき

保険に入る目的は家計の破滅を避けるため」だという前提に立つと、補償額に上限のある海外旅行保険は、保険としての存在意義がありません。

海外旅行保険は治療費や救援費用について無制限で補償されるものを選ぶべきです。

外務省も治療費全額補償プランを強く勧めている

外務省も海外渡航前に治療費無制限補償型の海外旅行保険に加入することを勧めています。

渡航前に十分な補償額の海外旅行傷害保険(100%カバー)に加入して備えておく必要があります。(外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(ニューヨーク)

保険は「めったに起きないものの一度起これば家計を破滅させかねないような不幸」に備えて入るものです。

海外旅行中の大きな病気やけがは、「めったに起きないものの一度起これば家計を破滅させかねないような不幸」の典型例です。

外務省に言われなくても保険で備えるのは当然ですね。

クレジットカード付帯の保険は気休め

京都大学も、学生や教員に対して、海外渡航時には治療救援保障額が無制限の海外旅行保険に加入することを義務付けています。

海外旅行傷害保険(治療・救援費用として支払い無制限を担保するもの)への加入を義務づけます。 (留学・海外渡航関係@ASAFAS院生・教員向情報サイト

クレジットカード付帯保険の頼り無さも説明しています。

※クレジットカード付帯の保険は、負担金額が非常に限定されている場合が殆どであり、また、初動対応が遅れる場合があります。さらに万一の時には、治療・救済費用等莫大な出費を強いられる可能性があります。(留学・海外渡航関係@ASAFAS院生・教員向情報サイト

京都大学が言う通り、クレジットカード付帯の保険はいざという時に役に立ちません。気休めです。

海外旅行保険には持病補償も付けたほうが良い

治療救援費用無制限の海外旅行保険に入っておけば万全かと言うとそうではありません。

通常の海外旅行保険では、渡航前から罹っている病気に対する治療費は補償対象外だからです。

持病が無いつもりでいても、海外での診療で発見された病気が「この病気は前々から罹っていたはずだ」などと以前からの持病だと断定されれば、治療費は補償対象外となり、全額自己負担となります。

そうならないためには、渡航前から罹っていた病気に対する治療救援費用も補償対象とする特約(持病補償・既往症補償)が付いた保険を選んだほうがいいです。

持病補償(既往歴補償)のついた保険は限られる

しかし、持病補償のついた海外旅行保険商品を出している会社はとても少ないです。

旅行代理店で旅行の手配をした場合は、治療救援費用無制限補償と持病補償が付いたプランを希望する旨を伝えれば、条件に合う保険を紹介してくれます。

次回海外に出かける前には、妻に準備を任せ切りにせず、自分で保険加入手続きをしっかり済ませたいと思います。

我が家の失敗談

どうして我が家が不十分な保険しか付けずに海外旅行に行くことになったかと言うと、加入すべき保険について、私が妻に詳しく説明していなかったからです。

妻はサイパンにずっと行きたがっていて、旅行の手配も大喜びでやってくれていました。

それを見た私は妻に海外旅行保険の手続きもお願いしました。

すると「もう加入したよ。」とのこと。

それで安心して飛行機に乗ったのですが、現地に着いてから妻に「海外旅行保険ってどこの会社のに入ったの?」と尋ねると、妻は「えっ?クレジットカードに付いてるじゃん。他の保険には入ってないよ。」とのお答え。

ええええええ…

私はFPですから、海外旅行保険は治療救援費用無制限補償と持病補償が付いたプランに加入したほうが良いという考え方です。

しかし、妻はそうではありませんし、それを責めることはできません。

天下の京大ですら、海外渡航時にクレカの保険で済まそうとする学生や教員がいるために、「クレカ付帯の保険じゃ不十分だよ」という警告を出さないといけないんですから。

保険についての自分の考えをきちんと説明するべきでした。あるいは私自身が保険の手配をするべきでした。

保険が不十分だと体調悪化時の不安がすごい

十分な保険をかけずに海外旅行に行って、現地で体の具合が悪くなると、不安でたまりません。

今回のサイパン旅行での私がそうでした。

夜中に腹痛でトイレに何回も駆け込む事態になったのですが、「何千万もかかる病気だったらどうしよう」という思いがどうしても湧き上がってきます。

体調が悪いだけでも大変なのに、精神衛生上とても良くないです。

海外旅行の前には、治療救援費用無制限補償かつ持病補償が付くプランで、海外旅行保険に加入すべきです。


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