ブラックな営業職も経験したことがあるため労働問題にもそれなりに関心のある@web_shufuです。最近話題になっているユニクロさんの店長に対する人事労務システムが、とてもよく出来ているのではないかと思えるので、思うところを書いてみます。
- 「よく出来ている」の意味
- 厳しい労働時間制限で店長の健康に配慮している姿を演出
- 店長=名ばかり管理職とは直ちには言えない
- 「長時間労働=店長の重大な過怠」というロジック
- 店長以外の選択肢で逃げ道を用意
- さほどの無理なく仕事をこなしている店長が実際にいる
- 明らかな違法行為を巧妙に避けている
「よく出来ている」の意味
最初に言っておきますが、ここでいう「よく出来ている」は、けっして、心から褒め称えていないので、誤解なきよう。
退職に追い込まれた店長がユニクロ相手に残業代とか賠償を請求する場合のハードルを極限まで高めることに成功している、という意味です。
厳しい労働時間制限で店長の健康に配慮している姿を演出
まず、ユニクロは、店長に対して月240時間を上限とする労働時間制限を課しています。
店長には管理監督者である店長には残業代は発生しないので、店長の心身の健康管理のためにやっている、ということになっているでしょう。
この労働時間の制限はある意味とても厳しく運用されているようで、違反を見つけた場合には懲戒処分をするという徹底ぶりです。
ここで、ユニクロは、店長の心身の健康に強く配慮している姿を演出することに成功しています。
もちろん、タイムカード上の出社時刻の前や退勤時刻の後に行われることによる、タイムカードに表れないサービス残業を積極的に把握しようとまではしていません。
しかし、他のほとんどの企業もそうであり、この点ことさら責められることもないでしょう。
店長=名ばかり管理職とは直ちには言えない
店長が名ばかり管理職と認定されると、ユニクロは巨額の残業代支払リスクにされされるのですが、この点もうまく処理しています。
ユニクロの店長の勤務実態に触れたネット上の情報からは、多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平成20年9月9日付け基発第0909001号)に明らかに抵触すると思えるものがありません。
上記通達の「アルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合」というのが、一見当てはまりそうですが、いまどきの上場企業様であるユニクロがそんな手抜かりをしているとは思えません。
どこの会社にでもありそうな「アルバイト・パート等の人員が不足して、店長を含むスタッフが恒常的な長時間労働をせざるをえないような異常事態に陥った際は上司に報告・相談して対応策を協議すること」などの内容が、表向きは徹底されていると思います。
仮にそうなら、店長が長時間労働に追い込まれる状態は、店長が上司への報告・相談を適切に行っていれば生じないことになります。
こうなると、もはや「アルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合」には当てはまりません。
もっとも、上記通達に抵触しなかったことは、店長が直ちに「名ばかり管理職」と判定されるリスクがないことを意味するのみです。
店長がれっきとした管理監督者と認められたわけでは有りません。
いわばグレーな状態です。
しかし、実際に退職した元店長がユニクロ相手の訴訟などをした場合、名ばかり管理職であったことを証明するのはとても大変な作業になるでしょう。
「長時間労働=店長の重大な過怠」というロジック
ユニクロは、店長が長時間労働に追い込まれる原因を、店長のかなり大きな過失に帰結させることにも成功しています。
先ほどと同様「アルバイト・パート等の人員が不足して、店長を含むスタッフが恒常的な長時間労働をせざるをえないような異常事態に陥った際は上司に報告・相談して対応策を協議すること」となっていたとしましょう。
すると、店長が長時間労働に追い込まれたのは、店長が上司への報告・相談を怠ったことが一番の原因になるわけです。
なぜ、店長が報告・相談をしないでこっそり長時間労働をするかといえば、「店長として無能」という烙印を避けるためです。
異常事態に陥ることなく乗り切る店長も少数ながらいるのでしょうから、異常事態に追い込まれた事実は人事考課で明らかに不利になるでしょう。
だから、先行き本社に栄転したいと思っている店長は、異常事態を報告せずに済まそうとします。
しかし、これをやってしまうと店長の側に明らかに非があります。だって、自分に都合の悪い事実を隠蔽しようとしたのですから。
多少妄想を入れて書きましたが、ユニクロは、店長の長時間勤務の原因が店長にあることを論理的に説明できるのではないでしょうか。
店長以外の選択肢で逃げ道を用意
ユニクロでは、正社員というのはいずれ店長や本社勤務が想定されたもののようで、このことは入社時に十分説明されているようです。
正社員で入社しても、店長職や本社勤務が自分の能力的に厳しいと思えば、自ら申し出て準社員やアルバイトになることが出来ると聞きます。
仮に、心身の健康を害して退職した店長から賠償を請求されても、「じゃあ準社員とかアルバイトになればよかったじゃない。店長が能力的に無理なんだからさ。それを自分の都合で店長職にしがみつき、隠れて勝手に長時間労働しておいて賠償はないでしょう。」などということが出来るのではないでしょうか。
さほどの無理なく仕事をこなしている店長が実際にいる
ここも想像ですが、どんなに優秀な店長でもこなすことの出来ないほどの仕事量は、普通は課されません。
おそらく、設定されている仕事量は、店長のうち数%の「できる」層なら、月240時間どころかもっと少ない時間でこなせる量なのではないかと思います。
たとえて言うならば、「1ヵ月後にテストするから、A4版1ページ分の英字新聞の記事を5分以内で読んで、記事についての質問に正しく答えられるようにしとけよな。」みたいな課題を出している感覚でしょうか。
無理なくこなす人がごく少数いる一方で、人によっては1時間かかっても出来ない事態が考えられます。
店長の仕事量に話を戻しますが、おそらく大半の店長は月240時間の制限の中ではこなすことが出来ないのでしょう。
しかし、このうちの半分くらいは早晩離職します。離職しないで準社員やアルバイトになる人もいるでしょう。
何が言いたいかというと、何とか店長業務をこなせるレベル以上の人だけが、最終的に残るということです。
仮に、ユニクロが退職した店長から業務の過酷さを追及されても、「店長にふさわしい能力があれば月240時間でこなせますよ。違法じゃないでしょう。長期にわたって会社が過酷な仕事量を強要した事実はないですね。」などと、もっともらしい資料つきで言うことができてしまうのではないでしょうか。
明らかな違法行為を巧妙に避けている
一般に、人を使い捨てにする印象を与える企業というのは、人事労務管理で何らかの明らかな違法行為をやっているものです。
しかし、ユニクロの場合は法律にはとても気を使っていて、明らかな違法行為をうまく避けつつ従業員を酷使しているのではないかと思いました。
以上柳井さんのしかけた”店長無理ゲー”という登用制度が「「明らかな違法性」を巧みに排除していると思われる件を、妄想を織り込みつつ書いてみました。