HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

保険はリスクマネジメントの最後の手段、資金調達の一方法に過ぎない

保険は万一の不幸に備えて資金を確保するためのもの。リスクマネジメントの手段です。

しかしリスクマネジメントの手段は保険に限りません。

保険には保険料というコストがかかるため、リスクマネジメントの手法としては、他の手段の方が優れていることも多いのです。

  • リスクマネジメントをどのような手順で行えばいいか。
  • リスクマネジメントの手法としてどのような手段があるか

といったことを、老後準備の観点から確認し、保険を適切に使っていきましょう。

リスクマネジメントとは何か?

リスクマネジメントを冒頭から連呼していますが「リスクマネジメントって何?」とお思いの方も多いかも知れませんので、リスクマネジメントの定義から書きます。

「リスクマネジメント」はこれから起きるかもしれない危険を予測して、事前に対応しておくこと(<だいじょうぶキャンペーン 危機管理学セミナー>「身近なリスクマネジメント」 千葉科学大学 危機管理学部教授 木村栄宏

営業活動に伴うさまざまな危険を最小の費用で食い止める経営管理活動(大辞林)

リスク・マネジメントとは不測の損害を最小の費用で効果的に処理するための経営管理手法である。(神戸大学 鈴木武志助教)

リスクマネジメントは、もともと企業経営に用いられていた概念ですが、事故や不祥事の防止など広い分野に応用されています。

職場でこの言葉が使われることも多くなってきましたよね。

ライフプランや家計管理でリスクマネジメントを考えるなら、定義の中に出てくる「営業」や「経営」を「家計」に置き換えるとわかり易いです。

老後準備におけるリスクマネジメント

では老後準備におけるリスクマネジメントとは何かを考えて見ましょう。

真面目に老後準備をするなら、ライフプランは作成しておくべきです。

[img-link url=”https://webshufu.com/how-to-make-a-life-plan-with-excel/” title=”エクセルを使ったライフプランの立て方~ライフプラン表の作り方|FPウェブシュフ”]

しかし、不幸に次々と見舞われると、せっかく作ったライフプランも実現が難しくなってしまいます。

ライフプランを立てたら、次は、「発生すればライフプランを狂わしかねない不幸」に対するリスクマネジメントをしたほうが良いです。

その手段の一つとして使われるのが保険ですが、リスクマネジメントの手段はほかにもあります。

いくつかある手段の中で最適なものを組み合わせて、「不測の損害を最小の費用で食い止める」のがリスクマネジメントです。

リスクマネジメントの手順

リスクマネジメントは一般に次の手順で行います。

  • リスクの確認
  • リスクの測定
  • リスクの処理方法の選択と実施

まずはリスクの確認から

リスクの確認とは、自分にとってどのようなリスクが存在するかを把握し、リスクに優先度を付けることです。

自分にとって先行き心配なことをすべて書き出し、重要度によって順位付けする形になります。

老後準備におけるリスクは、収入減少リスクと支出増大リスクに大きく分けることができます。

以下主だったところを上げておきます。

収入減少リスクの把握

一家の稼ぎ手について次のことが起こると収入減少に見舞われます。

  • 死亡リスク
  • 就業不能リスク
  • 失業・事業の失敗などによる収入減少リスク

死亡以外については、老後になって仕事をやめてしまえば関係ないですね。

支出増大リスクの把握

稼ぎ手かどうかにかかわらず、一家の誰かに次のようなことが起こると、支出増大に見舞われます。

  • 火災などの災害リスク
  • 自動車事故の加害者となるなどの損害賠償義務を負うリスク
  • あまりにも長生きしてしまうリスク
  • 病気やケガなど医療費増大リスク
  • 介護リスク

特に、後半の3つは、コンボになってのしかかることも多いので注意しましょう。

次はリスクの測定

リスクの確認が終わったら、次はリスクの測定です。リスクの測定とは、

  • リスクがどれくらいの確率で発生するか(発生頻度)
  • リスクが発生するとどれくらいの損失が出るか(発生時の損害額)

を把握することです。

リスクの種類によっては測定不可能なものもあります。

しかし、そのリスクに対応した保険商品がある場合は、ある程度測定可能です。

リスクの発生頻度と発生時の損害額が分かるような統計資料が、政府その他公的機関にあるものです。

なるべく粘り強く測定するようにしましょう。

全てのリスクに優先度をつける

リスクを把握・測定したら、対応に優先度をつけます。

リスク対応には費用が掛かるので、すべてに対応するわけにいかないことも多いのです。

優先度の設定には、家計の状況や個人の価値観が色濃く出ます。

最も大事なのは、リスク処理方法の選択と実施

リスクの測定が終わったら、いよいよリスク処理方法の選択です。

リスクの発生頻度と、リスク発生時の損害額によって、用いるべきリスクマネジメントの手法が変わります。

どの手法を選択すべきかについては、以下のような図がよく使われます。

2016-10-03_risk-management5

リスクコントロール

発生確率(発生頻度)が高いリスク(図の右半分)に対しては、まずはリスクコントロールを考えます。

リスクに対応すると言えば、リスクが起こってしまった場合の資金調達を考えがちですが、その前にやることがありますよね。

  • リスクが発生しないようにする(リスクの回避)
  • それが無理でも発生頻度を下げる対策をする
  • 発生した場合の被害を抑える対策を取る

このような対応をリスクコントロールと言います。

リスクの回避

リスクの回避とは、リスクの根源的な原因を取り除いて、リスクの発生確率をゼロにすることです。

risk-management-2016-04-14-3-1

例えば、自動車事故を起こすリスクを考えてみましょう。

自動車の運転をやめればリスクの発生確率はゼロになりますよね。

この場合、リスクの根源的な原因である「自動車の運転」をやめることは、自動車事故リスクの回避になると言えます。

ただ「自動車なしの生活なんて無理」という方は多いでしょう。その場合、自動車事故のリスクマネジメントを、リスクの回避で行うのは現実的ではないですよね。

リスクの低減(予防・軽減)

リスクが完全に回避できないなら、リスクを少しでも小さくするのが、リスクコントロールです。

リスクを小さくする対策をリスクの低減と言います。リスクの低減には予防と軽減の2つのアプローチがあります。

まず、リスクの予防とは、リスクの発生確率を下げるような手を打つことです。下の図でいえば青矢印です。

risk-management-2016-04-14-4

自動車事故を起こすリスクで言えば以下のようなことがリスクの予防となります。

  • 注意深く安全運転して事故の確率を下げる
  • 運転回数や運転距離を減らす

次に、リスクの軽減とは、リスクが発生した時の損害額を下げる処置をとることです。下の図でいえば、下向きの青矢印がリスクの軽減です。

risk-management-2016-04-14-5

自動車事故のリスクについて言えば、エアバッグやシートベルトを適切に使えば、事故時の被害を小さくすることが出来、治療費も少なくて済みますよね。


発生確率が大きくて発生時の損害の大きなリスク(図でいえば赤い部分)は必ず低減(予防・軽減)するべきです。

逆に言えば低減できないリスクは回避するべきです。

リスクファイナンシング

リスクを回避することができない限りリスクの発生は避けられません。

もちろんリスクを低減するように努力するべきですが、リスク発生時に損失(資金の流出)が発生するのは避けられません。

この場合、リスクの発生に備えてお金を準備しておいたほうが良いですよね。

これをリスクファイナンシングと言います。

リスクの保有(許容)…代表例は貯蓄

リスクの保有(許容)とは、リスクを自分ですべて引き受けることです。

リスク発生に備えた資金準備を、貯蓄と借入だけで備えることです。

自動車事故を起こすと損害賠償債務が億単位で発生しうるので、自動車事故リスクを保有するのは多くの方にとって不可能でしょう。

しかし、2か月程度の短期入院リスクを保有することは十分可能です。

月給30万円の会社員が2か月入院する場合、収入減少と支出増大の合計は50万円未満ですから、この程度ならリスクの保有で対応可能な家庭が多いでしょう。

リスクファイナンシングは、すべてリスクの保有(許容)で行うのが理想です。

しかし、保有(許容)で対応可能なリスクは、発生可能性が低く、発生したとしても損害額が小さくて済むものに限られます。

リスクファイナンシングの手段を選択する際には、損害が大きいか小さいかがとても重要ですから、大小を判断する基準が大事です。

一般に家計のリスクマネジメントでは、ライフプランの変更につながらない程度の損害であれば損害は小さいと判断します。

逆に、ライフプランの大きな変更を迫られるほどの損害であれば、大きな損害だと判断します。

リスクの移転(共有)…代表例は保険

リスクの移転とは、リスク発生に備えた資金準備を他人に丸投げすることです。

リスクの移転の代表的な手段は保険です。

しかし、保険を「他の保険契約者とリスクを分かち合っているもの」と考えると、保険はリスクの共有とも言えます。

自動車事故を起こすリスクについて言えば、自動車保険に加入することがリスクの移転となります。

予想される損害額と比べれば保険料は少額です。これでリスク発生時に保険金をもらえることになります。

リスクファイナンシングの方法は貯蓄と保険だけではない

ここでは、リスクファイナンシングの手法として、貯蓄と保険(民間保険会社の保険)しか紹介していません。

しかし、リスクファイナンシングはこれに限られるものではありません。事故発生時に確実に利用可能な借入も、立派なリスクファイナンシング手段です。

貯蓄か保険という二択思考に陥ると「お金がたまる前に万一のことがあったらどうするんですか。だから保険が必要です。」などと短絡的な発想となりがちです。

これでは、適切なリスクマネジメントができませんから、気を付けてください。

貯蓄と保険以外の幅広い方法を検討して、その中から最適なものを選ぶようにしましょう。

損をしてでも保険に入るのは最後の手段

保険はリスクマネジメント手法の一つですが、保険加入によって発生するキャッシュフローの期待値は、とても悪いです。

[img-link url=”https://webshufu.com/medical-insurance-is-not-profitable/” title=”保険に入ると損!純保険料と付加保険料を見れば明らか”]

「もし○○になったら不安だわ。とりあえず保険に入っておこうかしら。」という考え方だと、一生の間に多額の損をします。

「さまざまな危険を最小の費用で食い止める」のがリスクマネジメントですから、その手法として保険が適当である場面は意外と少ないものです。

保険は、その期待値の悪さを考えれば、他のリスクマネジメント手法をすべて当たってから、最終手段として検討するくらいがちょうどいいと思います。

保険加入によって発生するキャッシュフローの期待値がいくら悪くても、ほかに手段がないなら、保険を検討する価値は十分にあります。

その際、家計管理の観点から問題なく支払える程度の少額の保険料で、とても支払えない巨額損失を防ぐことができるなら、保険に入るのも悪くありません。

福沢諭吉もこのように言っています。

日本の生命保険事業の始まりは、慶応義塾大学の創始者である福沢諭吉の著書「西洋旅案内」でヨーロッパの近代的保険制度を紹介したことがきっかけです。『災難請合とは商人の組合ありて平生無事の時に人より割合の金を取り万一其人へ災難あれば組合より大金を出して其損亡(そんもう)を救う仕法(しほう)なり其大趣意は一人の災難を大勢に分ち僅の金を棄て大難(たいなん)を遁(まぬが)るる訳にて・・・(以下略)』(かづな先生の保険ゼミ:日本の生命保険の歴史 | 歴史で覚える日本の生命保険1

保険の中でも民間保険商品は最後の手段

保険を検討するといえば、民間保険会社が一般向けに販売する保険に加入するかどうかを検討することを指すことが多いです。

しかし、一般の民間保険商品を検討する前に、社会保険や団体保険のことを学んで、これらを最大限利用することを考えないといけません。

社会保険はそもそも強制加入であって、保険料もまるで税金のように徴収されているわけですから、最大限利用しないと大損です。

[img-link url=”https://webshufu.com/sorting-social-insurance/” title=”社会保険制度の種類と補償内容|FPウェブシュフ”]

団体保険は、民間保険商品の一つではありますが、一般の保険商品よりずいぶんお得なものが多いです。

保険を利用するのはリスクマネジメントの最後の手段です。そして、一般の民間保険商品の利用は、保険の中での最後の選択肢です。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

 最終更新日:

タグ: