貸倒引当金は現金支出を伴わずに費用計上できます。つまり、貸倒引当金を計上すると、現金支出がないのに、税金計算のもとになる利益が減って、節税につながるのです。
利用しない手はない仕組みですが、その処理の意味するところはちょっとわかりにくいです。
仕組みの意味することが理解できなくでも、貸倒引当金計上の仕訳は簡単。きっちり仕訳して、節税効果を手にしましょう。
貸倒とは
貸倒引当金を理解するのは大変(つまり説明が難しい)ですが、最初は敢えてチャレンジします。
まずは「貸倒引当金」の「貸倒」の意味から。
貸倒とは、資金の貸付先が倒産などで支払い不能となり、貸付金が焦げ付くことです。
取り立て不能ですから、貸付金が損金に変わります。
アフィリエイターやブロガーが各ASPに対して持っている売掛金も、貸付金の一種です。
ASPの倒産などで売掛金が回収不能になると以下のような仕訳をします。滅多にありませんけどね。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
□/□ | 貸倒損失 | ××× | 売掛金 | ×× |
貸倒損失という費用が増加したことが原因で、売掛金が減少しました。
引当金とは
次に「貸倒引当金」の「引当金」について。
引当金とは、当期に行ったことを原因として将来発生する可能性がある損失・費用に備えて、前もって費用計上した金額のことです。
以下の記事に、引当金の概念がわかりやすく説明されています。
上記記事で以下のような引当金が出てきます。
- 製品保証引当金…当期製造した製品に対して将来発生するであろう修理費用を当期に費用計上したもの
- 賞与引当金…当期に労働力供給を受けたことが原因で、来期に発生する賞与支給について、その費用を当期に計上したもの
貸倒引当金以外にも、実に様々な引当金が存在するわけです。
ただし、ブロガーやアフィリエイターの青色申告では、貸倒引当金以外の引当金とは無縁です。
貸倒引当金とは
貸倒引当金とは、当期に計上した売掛金が来年以降に貸し倒れた場合に発生する貸倒損失を、前もって当期に計上したものです。
言葉の意味を重視すると
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 将来発生するかもしれない貸倒損失 | ××× | 将来起きるかもしれない売掛金の減少 | ××× |
こうなるわけですが、勘定科目が長すぎます。
そこで、将来発生するかもしれない貸倒損失を「貸倒引当金繰入」、将来起きるかもしれない売掛金の減少を「貸倒引当金」と呼び、以下のように仕訳します。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 貸倒引当金繰入 | ××× | 貸倒引当金 | ×× |
貸倒引当金は未発生費用を計上できるお得な制度
青色申告帳簿作成では、事務処理を少なくしたいならば、現金主義で費用を認識します。
現金主義では、原則として、現金預金を支払わない限り、経費の計上が出来ないことになります。
しかし、貸倒引当金だけは、現金預金を支払うことなく、経費計上できるのです。
現金を減らさず経費計上できるということは、手元の現金を減らさずに利益の金額を減らせるということです。
利益が減れば税金も減ります。
貸倒引当金は、節税の観点からは、絶対に計上すべきものです。
貸倒引当金は売掛金・受取手形残高の5.5%まで計上できる
貸倒引当金を計上すればするほど、税金を減らすことができます。
貸倒引当金を無制限に計上できることにすると、ほとんどの事業者が、貸倒引当金をその年の利益以上に計上して税金計算上の利益をゼロにし、税金逃れをするようになってしまいます。
そこで、青色申告では、貸倒引当金の計上額に上限を設定しています。
ブロガーやアフィリエイターの場合は、売掛金・受取手形残高の5.5%です(1円未満の端数は切り捨て)。
ブロガーやアフィリエイターで手形を使う人はいないでしょうから、各ASPに対する売掛金の合計額の5.5%が、貸倒引当金の限度額になりますね。
初めて青色申告をする年の決算整理における貸倒引当金計上仕訳
年末の各ASPに対する売掛金残高合計が100万円だったとすると、決算整理の貸倒引当金計上仕訳は
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 貸倒引当金繰入 | 55,000 | 貸倒引当金 | 55,000 |
となります。
55,000円を払うわけじゃないのに、貸倒引当金繰入という費用が55,000円発生したことにすることが出来て、その分利益が減って節税になるのです。
所得税だけでなく、住民税・国民健康保険税も節税なるので、貸倒引当金の節税効果は絶大です。
2年目の決算整理における貸倒引当金仕訳
2年目以降の決算整理では、繰戻処理が必要な分、1年目より貸倒引当金の処理が面倒になります。
貸倒引当金の繰戻
決算整理の段階では、貸し倒れが発生しない限り1、前年に計上した貸倒引当金がそのまま残っています。
貸倒引当金というのは、まだ発生してもいない貸倒を見込んで、前もって費用計上したものでしたよね。
貸倒れが発生せず、無事1年経過したということは、発生してもいない貸倒を見込んで
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 貸倒引当金繰入 | 55,000 | 貸倒引当金 | 55,000 |
と仕訳したのが、心配し過ぎだったということになります。
言い換えれば、前期末に費用損失を計上し過ぎていたことになります。
そこで、貸倒引当金(将来起きるかもしれない売掛金の減少)を取り消し、計上し過ぎた費用損失を相殺するために貸倒引当金繰戻と言う利益を発生させる仕訳をします。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 貸倒引当金 | 55,000 | 貸倒引当金繰戻 | 55,000 |
これで前期末に計上し過ぎた費用損失をチャラにすることができました。
貸倒引当金の再計上
繰戻が終わったら、年末の各ASPに対する売掛金残高合計に対して、改めて貸倒引当金を積み増す。
この部分は1年目と同じ処理です。
年末の各ASPに対する売掛金残高合計が80万円だったとすれば以下のような仕訳をします。
日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
12/31 | 貸倒引当金繰入 | 44,000 | 貸倒引当金 | 44,000 |
※800,000×5.5%=44,000
実際の仕訳作業
さて、確定申告シリーズの投稿では何度も申し上げているように、私は「青色申告帳簿作成用エクセルファイル」を利用して、青色申告帳簿づくりを行っています。
仕訳は作業シートで行い、前回の記事までで、決算整理の家事按分仕訳までが終わっています。
この続きに、貸倒引当金に関する仕訳を行います。
まず、前々回作った決算整理前残高試算表の、
貸倒引当金の金額、売掛金の金額をチェックしましょう。
これらがわかれば、貸倒引当金の繰戻も繰入も、仕訳に書くことができますね。
仕訳を作業シートの家事按分仕訳の続きに書きます。
これで決算整理仕訳は終わりです。お疲れさまでした。
- 貸し倒れが発生した場合にどうなるかについては、今年は書くのを見送ります。めったに発生しませんし。 ↩