2022年10月から、家計支持者の年収が1200万円を超える家庭に対しては、児童手当が支給されなくなります。
これに対して「所得制限撤廃が少子化対策になる」「所得制限で少子化が進む」との主張がありますが、本当でしょうか。
状況を客観的に見ると、所得制限こそ少子化抑止につながると思います。
児童手当の目的からしても、少子化対策を効率的に進める観点から言っても、児童手当の支給に所得制限を設けるのは当然です。
児童手当の目的には少子化対策も含まれる
児童手当は子育て支援の一環
まず、児童手当法を見てみましょう。
この法律は、子ども・子育て支援法第七条第一項に規定する子ども・子育て支援の適切な実施を図るため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的とする。
児童手当法第一条
子育て支援の目的の一つは、少子化対策
ここで、子育て支援の目的を再度確認しておきましょう。
第一章 総則(目的)
第一条 この法律は、我が国における急速な少子化の進行並びに家庭及び地域を取り巻く環境の変化に鑑み、児童福祉法その他の子どもに関する法律による施策と相まって、子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援を行い、もって一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することを目的とする。
子ども・子育て支援法第一条
子育て支援の目的は「子どもが健やかに成長する(ことができる社会の実現に寄与する)こと」です。
急速な少子化の進行に鑑みてよいので、少子化対策としてなら、子育て支援の名目で、「子どもが健やかに成長すること」に無関係な施策も打てるはずです。
児童手当も子育て支援の一つです。
「子どもが健やかに成長すること」に役立たないような児童手当の支給でも、少子化対策の名目なら行ってよいわけです。
少子化対策にも効率が求められる
しかし、少子化対策の児童手当支給がすべて正当化されるかというと、そうではありません。
(基本理念)
第二条 (中略)3 子ども・子育て支援給付その他の子ども・子育て支援は、地域の実情に応じて、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。
子ども・子育て支援法第二条
上記条文からわかる通り、少子化対策として児童手当を支給するには、十分な効率性が求められます。
もし、期待以上に効率的なら、現金給付の増額すら検討の余地があります。
しかし、児童手当の支給が、少子化対策としても非効率的なら、支給は打ち切られるべきです。
子育て世代への現金給付は、少子化対策として非効率的
広く公開されている資料に基づく限り、現金給付の少子化抑止効果は薄いです(低所得者向けを除く)。
この場合、現金給付の支給対象から高所得者を除くことは、少子化対策としての効率の面からも正当化されます。
実際、子育て世帯は、現金給付の効果を実感していない
「子ども手当が子育て支援、充実につながったとは実感っされていない。」との研究があります。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20120330.pdf
現金給付による所得増は、少子化対策効果があるかどうか疑わしい
所得増、あるいは単純な現金給付は、子どもの数を増やすとは限らないことがわかる。というのも、所得が増えて、子どもにかけられるお金の総額が増えた場合には、子どもの数を増やすこともできるが、子ども1人当たりによりお金をかけることもできるからだ。特に現代では、子どもの教育を重視する家庭がかつてより増えているため、所得増は子どもの「質」の向上に向かいがちだ。そして、子どもの「質」が高いことを前提とすると、子どもの数を増やすことは大きな費用を伴ってしまう。…
…全体としていえるのは、出生率は現金給付政策に反応しうるということだ。とはいえ、その効果は大きなものではなさそうだ。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2020/jinkou_report04.pdf
現金給付による出生率上昇効果は、低所得世帯に限られるとの研究
現金給付の出生率上昇への効果は低所得世帯に限られるとの研究もある。これに基づく試算では、低所得世帯の新生児1人当たり480万円の一時金を給付(年間予算で2.4兆円)すれば、出生率は1.8に届く。
少子化対策の費用対効果と今後の保育政策 (2020年9月17日 No.3468) | 週刊 経団連タイムス
現金給付よりも、保育と幼児教育への現物給付の方が、効率的との研究
国際パネルデータを利用して、異なる家族政策の効果を評価した研究では、…最も大きな効果があるのは保育と幼児教育への財政支出だ。対GDP比で1%ポイント増えると、出生率(女性1人当たり子ども数)は0.27上昇する。
…ドイツの保育所整備の費用対効果について、現金給付と比較する形で概算を行った研究(※4)がある。…それによると、保育所整備は現金給付より5倍も大きな効果を上げる
経済学者の結論「少子化を止めるには児童手当より保育所整備を優先せよ」 現金給付より5倍も効果が高い (4ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
子ども・子育て関連の予算をカバーする「家族関係社会支出」は、合計特殊出生率と正の相関が見られることが知られている。中でも、保育・幼児教育や母子保健等の「現物給付」
少子化の現状と対策
は、児童手当や出産手当金等の「現金給付」に比べ、より強い相関が見られるとされる。
子育て支援では、現金給付を削減し、それ以上に現物給付を増やすべき
低所得世帯向けの現金給付は、それなりの効果が示唆されています。そのままでも良いでしょう。
また、育児休業期間中の給付にも、一定の効果が認められているようです。
しかし、それ以外の子育て関連現金給付は、効果が極めて薄いのです。
児童手当を含む子育て関連現金給付は、PDCAサイクル等で効果を確認しながら、所得制限を拡大するなどして絞り込んでいくのが妥当でしょう。
そして、現金給付削減額を大いに上回るレベルで、現物給付を増額するべきです。特に保育を始めとした就学前教育に資金を投じるべきです。
そうすることで、家族関係社会支出(≒少子化対策費)の質・量ともに改善することができます。
実際、少子化政策は、その方向にかじが切られています。
結果として、家族関係社会支出も年々増えています。
少子化対策の財源は拡大すべきだが、意外に日本は頑張っている
現在の日本において、家族関係社会支出対GNP比は、欧州の少子化対策先進国と比べて貧弱です。それが少子化の元凶とされることもあります。
上の図を見てわかるように、家族関係社会支出の水準は欧州先進国と比べると低めですが、ただ今絶賛改善中です。
改善を継続すれば、いずれ欧州水準に並ぶこともできるでしょう。
しかし、その財源をどうするかが問題です。
現在日本の税収対GNP比は31.4%。欧州諸国と比べてとても低いです。例えば、スウェーデンの税収対GNP比は42.6%です。
この差を埋めて少子化対策の財源を確保したいところです。
税収UPの主な手段は累進課税と資産課税の強化ですが、増税の実行には時間がかかります。
税収が十分に増えるまでの間は、少子化対策の観点からの効率性に注目して、家族関係社会支出を質・量ともに常に改善すべきだと思います。
最近特に重視され始めた、EBPM(evidence based policy making)に、一納税者として期待もしております。
EBPMの流れの中では、児童手当の所得制限を差し当たって強化する方向性は、当然だと思います。
自治体が独自給付を行って所得制限の埋め合わせをするのはアリ
ここまで「国は児童手当の所得制限をするべき」と主張してきました。その根拠は、児童手当の目的と、少子化対策としての効率の悪さです。
しかし、所得制限による児童手当削減分を埋め合わせるために、自治体が独自給付を行うのは悪くないと思っています。
自治体独自の給付は、児童手当の目的にさほど強くは縛られないし、自治体にとっては効率の良い少子化対策になるからです。
独自の子育て給付で子育て世帯を引き付け、少子化対策にとどまらず地域の活性化につなげている例があります。
ただ、よく見ると、両市とも、現物給付の魅力が成果を上げているようです。
やはり現金給付の少子化対策効果は、あまり大きくないのかもしれません。
高収入子育て世帯は、自治体間で奪い合いになる
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