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米国ウイグル強制労働防止法(UFLPA)によって、自動車部品やその原材料の輸入が差し止められ始めています

エグゼクティブサマリー

米国ウイグル強制労働防止法(UFLPA)が、自動車業界に厳しい目を向け始めています。

2022年6月、ウイグル強制労働防止法が施行されました。

これは、新疆ウイグル自治区にて全部又は一部が製造等(採掘・生産・製造)された製品等を、「強制労働」によって製造等されたものと推定し、原則として米国への輸入を禁ずるという厳しい法律です。

ただ、この時点では、自動車セクターは優先適用分野ではありませんでした。

しかし、2023年7月に、自動車部品は、ウイグル強制労働防止法の重要なターゲットとなりました。実際、2023年になってから、新疆ウイグル自治区と関係する自動車部品その他自動車原材料の輸入が差し止められ始めています。

そこで、以下のような対応を行う必要があります。

対応策

輸入差し止めを未然に防ぐためにも、輸入を差し止められた時にそれを解除するためにも、結局は、強制労働について人権デューディリジェンスをしっかりやるしかありません。

自動車部品メーカーは、サプライチェーンで繋がる各企業(特に完成車メーカー)と協力しながら、強制労働について人権デューディリジェンスを推進することが求められています。

特に、サプライチェーンマッピングには、今すぐ取り掛かるべきです。

以下で詳細にレポートいたします。

目次

-2022年6月- ウイグル強制労働防止法が施行されるも、自動車は優先適用ターゲットとはならず

米国ウイグル強制労働防止法(UFLPA)が2021年末に成立し、2022年6月21日に施行されました。

新疆ウイグル自治区にて全部又は一部が製造等(採掘・生産・製造)された製品等は、国家が立証することなく「強制労働」によって製造等されたものと推定し、原則として米国への輸入が禁止されるという厳しい法律です。

新疆ウイグル自治区に関係する製品等の輸入は、原則として禁止

  • 新疆ウイグル自治区で一部なりとも採掘、生産、製造された製品は全て強制労働によるものと推定し輸入を禁止(米国ウイグル強制労働防止法成立以前にすでに輸入禁止措置の対象であった綿・トマト等から、全製品へと輸入禁止の対象が拡大)。
  • 強制労働への関与等の疑いのある事業者のリスト(UFLPA エンティティ・リスト)に掲載されている事業者等によって全部又は一部が製造等された製品等は、全て「強制労働」によって製造等されたものと推定する。

なお、中国およびその他の国で製造されたり中国を経由して出荷されたりした製品で、新疆ウイグル自治区で製造等された部品を含むものにも、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)が適用され、原則として輸入が禁止されます。

新疆ウイグル自治区にて全部又は一部が製造等された製品等であっても、「製品に新疆ウイグル自治区が関与していたとしても、強制労働に依拠して製造されたものではない」ことを証明できれば例外的に輸入を認めてもらえることになっています。しかし、2023年10月現在、成功例はいまだありません。

自動車は、材料産地追跡の困難性からか、当初はターゲットとされず

強制労働タスクフォースが策定する中国で強制労働により採掘、生産 または製造された物品の輸入を防止 するための戦略〔ウイグル強制労働 防止法(UFLPA)戦略〕は、ウイグル強制労働防止法が優先適用される分野として、

  • アパレル
  • 綿・綿製品
  • シリカ系製品
  • トマト・トマト製品、

を挙げていました。この時点では、自動車は、ウイグル強制労働防止法優先適用分野から外れていました。

自動車部品は、「数万点にも及ぶ」と言われるほど種類が多く、サプライチェーンが複雑であるため、自動車メーカーが材料産地を追跡したり強制労働との関与を判定したりすることは非常に難しいとされていたからです。

-2022年12月以降-「自動車会社やその供給業者による材料産地追跡は十分可能」とされる

ところが、「サプライチェーンが複雑であるため、自動車メーカーが材料産地を追跡したり強制労働との関与を判定したりすることは非常に難しい」という常識は、2022年12月に覆りました。

自動車会社やそのサプライヤーと比べて非常に小さな組織である大学やNGO組織が、技術を駆使して、各自動車会社の材料産地を、かなりの程度追跡することに成功したたからです。パラダイムシフトが起きたのです。

いまや「自動車会社やそのサプライヤーが、材料産地を追跡したり強制労働との関与を判定したりすることは、十分に可能」というのが常識です。

自動車産業がウイグルからの調達を続けていることを、ある大学が暴露

シェフィールド・ハラム大学の研究チームは、テクノロジーを駆使して、新疆ウイグル自治区の強制労働と自動車産業との深刻な関連性を、客観的に見て合理的な形で指摘することに成功しました。

世界の自動車産業は原材料や部品などの調達で今なお中国の新疆ウイグル自治区と深い関わりを持っていることが、新たな報告書で明らかになった。今年発効したアメリカの法律では、中国政府が主にイスラム教少数民族に対して人権侵害を行っているとして、新疆からの物品調達は原則禁止とされたが、それにもかかわらず調達が続けられていることになる。

(中略)

フォルクスワーゲン、ホンダ、フォード・モーター、ゼネラルモーターズ(GM)、メルセデス・ベンツ・グループ、トヨタ自動車、テスラといった自動車メーカーが、どこかのタイミングで新疆を経由した原材料また部品を使った自動車を販売した可能性は濃厚だ。
「私たちが調査した自動車部品で、新疆ウイグル自治区(の問題)に汚染されていないものはなかった」。マーフィー氏は「これは業界全体の問題だ」と話す。

「トヨタ車」にも入り込むウイグルの強制労働部品 ベンツ、テスラ…業界全体の汚染が調査で発覚 | The New York Times | 東洋経済オンライン

このことによって、自動車会社とそのサプライヤーは生産プロセスの各段階で材料を追跡することが可能という認識が普通となりました。

小さな大学に出来て、巨大な自動車産業に出来ぬはずはない

「業界の中には、サプライチェーンを通じて材料の産地と二酸化炭素排出量を追跡することは不可能だと言っている人もいます。それは簡単ではないかもしれませんが、不可能に近いことではありません。」と欧州規制当局に助言するサプライチェーン監視会社サーキュラーの最高経営責任者、ダグ・ジョンソン・ポーエンジェン氏は語った。「誰もがこれをやらなければならないだろう。」[

(中略)

ジェプソン氏は、シェフィールド・ハラム大学のような限られた予算で運営する企業が、自動車会社が発見できなかった強制労働との関連性を発見できるのは、企業の努力が十分ではないことを示していると述べた。 「サプライヤーに何が起こっているのかを小さな(非政府組織)が知ることができるのに、あなたにはできないと言うつもりですか?」彼は言った。「自動車会社がこれを解明するための技術や人材がいないと言うのはナンセンスです。」

Tesla and EV supply chains raise concerns about forced labor in China – Washington Post

アメリカ上院議員、ウイグルと自動車産業の深い関係を追及開始

自動車会社とそのサプライヤーは、生産プロセスの各段階で材料を追跡できて当然とする前提の元、ワイデン米上院議員は自動車会社への追及を開始しました。

規制当局が博覧会を開催し、材料の産地や製造過程における強制労働の関与を追跡する技術を紹介

材料の産地や製造過程における強制労働の関与を追跡するには、新技術の導入が欠かせません。

(欧州規制当局に助言するサプライチェーン監視会社サーキュラーの最高経営責任者)ダグ・ジョンソン・ポーエンジェン氏は、新技術により自動車会社とそのサプライヤーは生産プロセスの追各段階で材料を追跡できるようになり、例えば持続可能な方法で採掘された鉱物が他の鉱物と混合した場合に警報を発することが可能になる、と述べている。追跡システムは大量のデータを分析して、施設で現地の労働違反や環境違反がないかどうかを判断します。衛星カメラを使用して、業務の監視や、誰が出入りしているかを監視できます。

Tesla and EV supply chains raise concerns about forced labor in China – Washington Post

CBP(U.S. Customs and Border Protection、米国税関・国境警備局)が Forced Labor Technical Expo (強制労働追跡技術博覧会)in March 2023 ( 議題・内容 サマリー Full動画 )を開催しました。

この博覧会では、サプライチェーンにおける強制労働の可能性を特定して対処するためのデューデリジェンスの取り組みを強化するために利用できるさまざまなツールやテクノロジーに焦点が当てられてました。

これによって、新技術により自動車会社とそのサプライヤーは生産プロセスの各段階で材料の産地や製造過程における強制労働の関与を追跡することができるようになったことが、さらにはっきりとしてきました。

-2023年7月- 自動車部品は、ウイグル強制労働防止法の重要なターゲットとなる。

そして現在、自動車産業にとって、中国での事業活動や中国からの調達のリスクは、かつてなく高まっています。

2022年の時点では、UFLPA戦略でウイグル強制労働防止法が優先適用されるとして明言されていたのは、次のセクターだけでした。

  • アパレル
  • 綿・綿製品
  • シリカ系製品
  • トマト・トマト製品、

2023年7月26日のUFLPA戦略改定(2023 Updates to the Strategy to Prevent the Importation of Goods Mined, Produced, or Manufactured with Forced Labor in the People’s Republic of China)では、市民社会や学術界を含むNGOによって潜在的なリスク領域として特定されたすべてのセクターを監視する重要性が強調されました。具体的には、次のセクターが挙げられました。

  • 農産物(ナツメヤシおよびその他)
  • 自動車部品
    • ビニール製品および下流製品
    • アルミニウムおよびアルミニウム製品
    • 鉄鋼および鉄鋼製品
    • 鉛酸およびリチウムイオン電池
    • 銅および銅製品
    • エレクトロニクス
    • タイヤ
    • その他

イギリスのシェフィールド・ハラム大学から、自動車部品の多くに新疆ウイグル自治区の強制労働と深いつながりがあることを指摘されたことからすれば、監視すべきセクターとして自動車部品が名指しされたのは当然です。

自動車会社とそのサプライヤーは、生産プロセスの各段階で材料を追跡することが可能と見なされているので、粛々とそれを実行するよりほかありません。

自動車関連製品の輸入が差し止められ始めた

2023年8月17日、ロイターの記事 によれば、今年2月以来、実際に自動車関連の輸入差し止めも発生しています。また、アルミニウムや鉄鋼などの卑金属の輸入差し止めも、2022年末の月額約100万ドルから月額1,500万ドル以上に急増しています。

The expanded focus is reflected in CBP data, which shows 31 automotive and aerospace shipments have been detained under UFLPA since February of this year. Detentions of base metal shipments, which would include aluminum and steel, have also soared from about $1 million per month at the end of 2022 to more than $15 million a month.

EXCLUSIVE-US imports of auto parts face scrutiny under law on Chinese forced labor| Reuter

ロイターが接触した自動車メーカーとサプライヤー13社のうち、メルセデス・ベンツ米国、フォルクスワーゲン、デンソー、ZFフリードリッヒスハーフェンAGの4社は、UFLPAに基づく輸入差し止めは受けていないと述べた。

フォルクスワーゲンの広報担当者は電子メールで、「UFLPAの下で、世界的なメディアのスクリーニング、リスク分析、持続可能性と人権に関するサプライヤーとバイヤーのトレーニングなどのデューデリジェンスをさらに強化した」と述べた。

フォード、ボッシュ、ゼネラルモーターズ、ホンダ、トヨタ、ステランティス、マグナは書面による声明で、自社のサプライチェーンから強制労働がないように努めると述べたが、UFLPAに基づく輸入差し止めに関する質問には応じなかった。

EXCLUSIVE-US imports of auto parts face scrutiny under law on Chinese forced labor | ロイター

輸入禁止対象となった事業体のリストには、新疆ウイグル自治区以外の中国国内事業者も含まれる。

冒頭で述べたように、ウイグル強制労働防止法は、次のような製品等の米国への輸入を禁ずる法律です。

2023年になって、強制労働への関与等の疑いのある事業者のリスト(UFLPA エンティティ・リスト)に掲載される企業は、6月9日8月1日9月26日 と3回にわたって増加しています。このリストに掲載される企業は、JETROによれば次の4パターンあります。

  1. 新疆ウイグル自治区において強制労働により産品を生産している事業者
  2. 新疆ウイグル自治区政府と協力して、強制労働者や迫害されている人種グループを、新疆ウイグル自治区から受け入れている事業者
  3. 上記①または②の事業者によって生産された産品を中国から米国に輸出している事業者
  4. 新疆ウイグル自治区、または、貧困軽減プログラム、ペアリング支援プログラム、および、強制労働を利用するその他の政府のプログラムのために新疆ウイグル自治区政府もしくは新疆生産建設兵団(Xinjiang Production and Construction Corps)と協力する事業者から材料を調達する事業者

2.3.4.のパターンに当てはまる事業者は、新疆ウイグル自治区に限らず、中国全土に存在する可能性があります。

全ての中国企業に対して警戒が必要な情勢です。

対応策は、人権デューディリジェンスをしっかりやること

では、ウイグル強制労働防止法による輸入差し止めに備えて何をやるべきか。

今後の対応策としては、新疆ウイグル自治区絡みの強制労働に絞った人権デューディリジェンスを、次のような米国政府の文書に則ってきちんとやるほかありません。

そして、この問題はサプライチェーン全体の問題です。個社で対応するのが難しい事柄、非効率となる事柄が含まれます。そういった事柄については、サプライチェーン全体(特に完成車メーカー)、ひいては業界全体で、一致協力する必要があります。

そこで、協力に向けて対外的な働きかけを行いつつ、社内においては個社で対応可能な事柄について、準備を進める必要があります。

輸入差し止めを防ぐには、新疆ウイグル自治区の強制労働に絞って、人権デューディリジェンスを徹底的に実施するしかない

中国国内で事業をしたり中国企業と取引をしたりする企業は、自社や取引先が新疆ウイグル自治区からの強制労働を利用することのないように気を付けないと、製品の米国への輸入が差し止められかねません。

そうならないためにはどうすればいいでしょうか。以下の※ExigerのCEOの発言が参考になります。

「もしあなたが自動車メーカーで、中国を経由する重要な鉱物やサブアセンブリの部品、そしてその商品がどこから調達されているかについて、サプライチェーンのマッピングを始めていないとしたら、あなたは大きな危険にさらされています」とExigerのCEO、ブランドン・ダニエルズ氏はインタビューで語った。

EXCLUSIVE-US imports of auto parts face scrutiny under law on Chinese forced labor | ロイター

つまり、マッピングをすればいいのです。マッピングとは、自社のサプライチェーン全体にわたってサプライヤーに関する情報を収集する作業のことです。

Exigerは、 サプライ チェーン リスク管理 (SCRM)サービスとサードパーティ リスク管理 (TPRM)サービスを、アメリカ連邦政府に提供する企業です。 Forced Labor Technical Expo (強制労働追跡技術博覧会)にも出展しました。規制当局に近い存在がこのような発言をするのはとても重いことです。

しかし、マッピングだけをやるのでは不十分です。

マッピングを含めた人権デューディリジェンスを、新疆ウイグル自治区の強制労働に絞って徹底的に行わなければなりません。

人権デューディリジェンスとしては以下のことに取り組みます。

  • デューディリジェンス
    • 1)利害関係者とパートナーの関与
    • 2)リスクと影響の評価
    • 3)行動規範の策定
    • 4)サプライチェーン全体でのコミュニケーションとトレーニング
    • 5)コンプライアンスの監視
    • 6)違反の是正
    • 7)第三者によるレビュー
    • 8)パフォーマンスと関与の報告
  • 効果的なサプライチェーンの追跡(マッピング含む)
  • サプライチェーンの管理措置
中国で強制労働により採掘、生産または製造された物品の輸入を防止するための戦略〔ウイグル強制労働防止法(UFLPA)戦略〕概要/JETRO 19ページ 20ページから30ページにデューディリジェンスの詳細が記載されています。

これくらい徹底的に人権デューディリジェンスをやっておかないと、自社製品の製造過程から強制労働に関係する原材料を排除することはできないとされているわけです。

■ 企業に求められる対応

企業としては、国境で荷物が止まることを待っていては遅い。具体的な準備として、第1に、米国に輸出する自社製品の部品レベルから、新疆ウイグル自治区で製造等された物品が使われているかどうか、サプライチェーンを精査する必要がある。第2に、エンティティー・リストの企業と取り引きがあるかどうかを精査する必要がある。例えば、サプライヤー本体がエンティティー・リストに掲載されていなくても、工場の労働者がエンティティー・リストの企業から派遣されているケースや、製造施設の所在地のみを便宜的に他の都市に設定し実際の工場は新疆ウイグル自治区に置いているケースもある。企業には慎重な調査が求められる。

仮に自社が強制労働に関与していないという確信があったとしても、CBP(U.S. Customs and Border Protection、米国税関・国境警備局)に差し止められないとは限らない。米国に物品を輸出する限り、差し止めのリスクがあることを理解し、サプライチェーンを十分に精査する必要がある。

ウイグル強制労働防止法に関する懇談会を開催 (2023年6月1日 No.3592) | 週刊 経団連タイムス

輸入差し止めの解除には、その製品の製造等に新疆ウイグル自治区が全く関与していないことを裏付ける証拠書類が必要

CBP(U.S. Customs and Border Protection、米国税関・国境警備局) により貨物が差し止められた場合には、どのような手続きを行うことで、貨物を解放することができるでしょうか。

ウイグル強制労働防止法適法性審査のベストプラクティス2023 年 2 月 23 日(JETRO)に手掛かりがあります。

米国の「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が施行された 2022 年 6 月 21 日から 2023 年 4 月 3 日までに、米国税関・国境警備局(CBP)は 490 件の貨物の輸入を拒否(denied)、1,778件を保留(pending)、1,323 件を解放(release)して輸入を許可している。

  1. CBP が 2022 年 6 月 13日に公表した「輸入者向けのガイダンス(2022 年 6 月ジェトロ調査レポート参照)」によると、製品に新疆ウイグル自治区が関与していたとしても強制労働に依拠して製造されたものではないという、上述の推定に対する反証を「明確かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)」を以って輸入者が示し、その証拠を CBP が認めた場合には、当該貨物を解放できる。CBP がその証拠を認めた場合には、その決定から 30 日以内に CBPは報告書を連邦議会に提出したのち、広く一般に公開する。ただし、そうした事例はこれまでみられない
  2. 同法の執行を監督する米国省庁横断の強制労働執行タスクフォース(FLETF)が 2022 年 6 月 17 日に公表した「UFLPA 執行戦略(2022 年 6 月ジェトロ調査レポート)」によると、当該貨物のサプライチェーンにそもそも新疆ウイグル自治区が関与しない場合には、輸入者は CBP に対して「適法性審査(applicability reviews)」を要求できる。
ウイグル強制労働防止法適法性審査のベストプラクティス2023 年 2 月 23 日(JETRO)

上記から、輸入を差し止められた貨物を解放してもらうための手続きは、2つあることがわかります。

  1. 製品に新疆ウイグル自治区が関与していたとしても、強制労働に依拠して製造されたものではない」ことを証明する。
  2. 当該貨物のサプライチェーンにおいて新疆ウイグル自治区が全く関与していない」ことを証明し、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)の対象ではないことを証明する。その手続きとして、適法性審査(applicability reviews)を請求し、審査にパスする

ウイグル強制労働防止法(UFLPA)施行後、1. の方法の成功例は未だありません。一度輸入を差し止められたのちに解放された貨物は、全て 2. の方法によって解放されたことになります。

1.2.いずれの手続きによるにしても、輸入を差し止められてから対応を考えるのでは手遅れです。

輸入を差し止められた貨物を解放してもらう手続きには、サプライチェーン全体における原材料・資源の注文・購入・製造・輸送を裏付ける証憑書類の提出が求められるため、通常業務においてそれらの書類を確実に作成するとともにもれなく保管しておかないといけないのです。

要するに、日ごろからデューディリジェンスを適切に実行し、その証拠書類をしっかりと残すことが必要なのです。

保管するべき書類の具体例

ウイグル強制労働防止法 米国税関国境警備局の輸入業者向け業務ガイダンスでは、作成すべき書類(CBPから提出を求められる可能性がある書類)は、次のように例示されています。ずいぶん沢山あるのでめまいがしそうですが、それでも地道に準備しないといけません。

A. デューディリジェンス・システム情報に関連する書類

デューディリジェンスのシステムまたはプロセスを示す文書で、次の内容を記したもの。

  • サプライチェーンのマッピングと、原材料から輸入品の生産までのサプライチェーンに沿った強制労働リスクの評価に関する書類。
  • 強制労働の使用を禁止し、中国政府の労働制度利用のリスクに対処するための、サプライヤー行動規範の書面。
  • サプライヤーを選択しサプライヤーとやり取りする従業員や代理店に対する、強制労働リスクに関するトレーニングに関する書面。
  • サプライヤーの行動規範遵守状況の監視記録の書面。
  • 特定された強制労働条件の是正、またはサプライヤーとの関係の終了(是正が不可能な場合、または適時に完了しない場合)に関する書面。
  • デューデリジェンスシステムの導入と有効性について、独立した検証が行われたことを示す書類。
  • デューデリジェンスシステムのパフォーマンスとエンゲージメントを公的報告したことを示す書類

B. サプライチェーン追跡情報に関連する書類

原材料から輸入品までのサプライチェーンを追跡する文書を言います。

この文書は、輸入業者が提供するかもしれないまたは CBP によって要求されるかもしれない情報の種類を、説明するために提供されています。

また、この文書は「輸入品のサプライチェーンに新疆が全く含まれずエンティティリストに掲載された事業体とも関係がないために、その輸入品が UFLPA の対象ではない」旨を示すためにCBPに提供されます。

また、この文書は、その輸入品が強制労働と無関係でUFLPA を遵守していることを示すため、あるいは CBP が要求できる情報の種類を説明するために、提供されます。

  • サプライチェーン全体に関する証拠書類
    • 輸入製品やその部品などのサプライチェーン(採掘、生産、または製造の全段階)を詳細に説明する書類。
    • 荷送人や輸出者などサプライチェーン内の事業体の役割:例えば、CBP は、サプライヤーが製造者でもあるか否かを判断する必要がでしょう。
    • サプライチェーン内の事業体については、連邦規則集第 19 編第 152.102 条(g)に従い、あらゆる関係を特定しなさい
    • 生産プロセスの各段階に関連するサプライヤーのリストで、名前と連絡先情報 (住所、電子メール アドレス、電話番号) を含むもの。
    • 生産プロセスに関係する各企業・団体からの宣誓供述書。
  • 商品またはその構成部品に関する証拠書類
    • 発注書
    • 全てのサプライヤーおよびサブサプライヤーのインボイス(納品書兼請求書)
    • 梱包明細書
    • 材料明細書
    • 原産地証明書
    • 支払い記録
    • 売主の在庫記録(ドック/倉庫の領収書を含む )
    • マニフェスト、船荷証券(例:航空路/船舶/トラック輸送)を含む出荷記録
    • ドック/倉庫のレシートを含む買い手の在庫記録
    • 全サプライヤーおよびサブサプライヤーの請求書および領収書
    • 輸入/輸出記録
  • 採掘業者、生産者、または製造業者に係る証拠書類
    上記で列挙された、商品またはその構成要素の原材料に関連する証拠。綿、ポリシリコン、トマトなどの高リスク商品に関連する具体的な例については、以下を参照してください。
    • 採掘、生産、または製造の記録
      • CBP が原材料から採掘、生産、または製造された商品にいたるまでを追跡できるようにするための書類
      • 生産指示書
      • 工場における商品生産能力に関する報告書
      • 輸入業者、この工場から調達している下流サプライヤー、または第三者による工場現場訪問に関するレポート
      • 構成材料の投入量と生産された商品の生産量が一致する証拠
    • 商品の全部か一部が強制労働を利用して採掘、生産、または製造されていないことを証明するためのその他の証拠

注:この CBP 運用ガイダンス文書付録に、新疆ウイグル自治区からの高リスクの商品に関する推奨文書が記載されています。

C. サプライチェーン管理措置に関する情報に関連する書類

サプライチェーン管理措置に関する文書。以下のような文書を含んでよいです。

  • 強制労働リスクを予防軽減し、輸入品の採掘・生産・製造の中で特定された強制労働の利用を是正するための内部統制。
  • 輸入者は、提供された文書が、監査済み財務諸表を含む業務会計システムの一部であることを説明できるようにすべきです。

D. 商品の全部または一部が新疆ウイグル自治区で採掘、生産、製造されていない証拠

商品のサプライチェーンを追跡する文書(文書の種類については、サプライチェーンの追跡に関するセクション IV、B を参照してください)。

E. 中国原産商品の採掘・生産・製造には、その一部たりとも、強制労働を利用していないという証拠

文書には以下のものが含まれてよいですが、これに限定されません。

  • 商品生産に関わる全ての事業体を特定するサプライチェーンマップ。
  • 中国での商品の生産に関わる各事業体の労働者に関する情報(労働者 1 人当たりの賃金支払いや生産高など)。
  • そして中国におけるすべての労働者が自発的に募集され働いていることを確認するための内部統制と、労働者募集に関する情報。
  • 強制労働の兆候や強制労働が存在する場合の是正を特定するための信頼できる監査。
ウイグル強制労働防止法 米国税関国境警備局の輸入業者向け業務ガイダンス

今すぐ、サプライチェーンマッピングから着手するべき

デューディリジェンスは大変です。新疆ウイグル自治区の強制労働だけに対象を絞り込んだとしても、一朝一夕にできるものではありません。しかし、だからこそ、今すぐ取り掛かるべきです。

アメリカに続いてEUも、強制労働を利用して製造された製品の輸入を禁じようとしているからです。

次に紹介するオックスフォード大学法学部のブログを見る限り、もはや時間の問題と言ってもいい状況です。

Draft EU Regulation to introduce product bans for CSDDD violations in form of forced labour | Oxford Law Blogs

サプライチェーンから強制労働を排除するための人権デューディリジェンス、そのためのサプライチェーンのマッピングは、いずれやらなければなりません。これらの作業は大変で手間がかかり一朝一夕にはできません。だからこそ、今すぐに着手するべきです。

特に、サプライチェーンのマッピングは、環境に関するデューディリジェンスを行う際にも必要ですから、緊急度はより高いです。今すぐに着手するべきです。

完成車メーカーとサプライヤーとの人権尊重に関する協議には、可能な限り参加する。

強制労働の問題はサプライチェーン全体の問題です。個社で対応するのが難しい事柄、非効率となる事柄が含まれます。そういった事柄については、サプライチェーン全体(特に完成車メーカー)と緊密に協議する必要があります。

完成車メーカーと人権問題について話し合う機会があれば、なるべく参加するようにするべきです。

トヨタ自動車も、強制労働との人権問題に関するサプライヤーとの会合を、開いているようです。

https://global.toyota/pages/global_toyota/sustainability/human-rights/statement_on_the_modern_slavery_acts_jp.pdf

他社と協議する機会を生かすことで、人権問題に関する情報をより効率的に入手できるようになると同時に、強制労働をはじめとした人権問題への対応にかかるコストを減らすことができるはずです。