HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

差額ベッド代の対策は支払拒否に限る

連載:医療保険は不要 第13回です。

前回の記事で、差額ベッド料金の平均や相場について話しました。差額ベッドの料金は千差万別であるため、差額ベッドを使うと、入院費用の見通しを立てにくくなります。

そこで今回は「差額ベッド代を支払わずに済ませるにはどうしたらいいか」という話をします。

差額ベッド代の支払いを拒否できる場合

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厚生労働省が地方厚生局医療課長宛てで出した通知には、差額ベッド代を請求してはならない例として、以下の場合が挙げられています。

  1. 差額ベッド代の金額が記載された同意書に患者が署名をしていない場合
  2. 治療上の都合で患者に差額ベッドを使わせた場合
  3. 病棟管理の都合から患者に差額ベッドを使わせたときで、実質的に患者の選択によらない場合

つまり、①②③のどれかに一つにでも該当すれば、病院からの差額ベッド代を請求されても拒否することができます。

一つ一つ見ていきましょう。

同意書に署名をしていない場合

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厚生労働省が地方厚生局医療課長宛てで出した通知には以下のように書かれています。

(8) 患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合としては、具体的には以下の例が挙げられること。(中略)
① 同意書による同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む。)

※特別療養環境室とは差額ベッド代のかかる病室のことです。

差額ベッド代が記載された同意書にサインをしなければ、差額ベッド代を払う必要はありませんよね。

そのうえ、同意書のサインだけでは、病院が差額ベッド代を請求することはできません。サインをさせる前に丁寧な説明をしなければなりません。

厚生労働省が地方厚生局医療課長宛てで出した通知には以下の部分もあります。

(7) 特別療養環境室へ入院させた場合においては、次の事項を履行するものであること。
① 保険医療機関内の見やすい場所、例えば、受付窓口、待合室等に特別療養環境室の各々についてそのベッド数、特別療養環境室の場所及び料金を患者にとって分かりやすく掲示しておくこと。
② 特別療養環境室への入院を希望する患者に対しては、特別療養環境室の設備構造、料金等について明確かつ懇切丁寧に説明し、患者側の同意を確認のうえ入院させること。
③ この同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることにより行うものであること。なお、この文書は、当該保険医療機関が保存し、必要に応じ提示できるようにしておくこと。

病院がここまで説明義務を果たして、初めて差額ベッド代が発生するのです。

ろくな説明もなく「落ち着いたらこの書類にサインをお願いします。」と言われて同意書にサインした程度なら、差額ベッド代を支払う必要はありません。

治療上の都合で差額ベッドを使うことになった場合

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差額ベッド代は、病気の治療上の都合で差額ベッドを利用した場合にも、支払う必要がありません。

厚生労働省が地方厚生局医療課長宛てで出した通知には次のようなくだりもあります。

(8) 患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合としては、具体的には以下の例が挙げられること。(中略)
② 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
(例)
救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者

こういうケースでは、たとえ同意書にサインしてしまっても、差額ベッド代を支払う必要がありません。

病棟管理の都合から差額ベッドを使うことになった場合

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差額ベッドしか空いていないためしぶしぶ差額ベッドを使うケースなどが、病棟管理の都合から差額ベッドを使うことになった場合に当たります。

こういうケースも、差額ベッド代の支払いは不要です。

厚生労働省が地方厚生局医療課長宛てで出した通知に以下の内容があります。

(8) 患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合としては、具体的には以下の例が挙げられること。なお、③に掲げる「実質的に患者の選択によらない場合」に該当するか否かは、患者又は保険医療機関から事情を聴取した上で、適宜判断すること。(中略)
③ 病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
(中略)
特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合

適宜判断するのは、通知の宛名からして、地方厚生局医療課長ですね。

また日経新聞に次のような記事もありました。

「差額ベッド代が嫌なら他の病院に行ってください」というケースなどは、「個々の事情に即して判断する必要があるが、差額ベッド代の徴収は不適切」(厚労省)だ。(その「差額ベッド代」払う必要ないかも 同意が前提|マネー研究所|NIKKEI STYLE)

「差額ベッド代を払わないなら入院できない」というのは、病院としてありえない対応ですね。

差額ベッド代の支払いを拒否してトラブルが起きたら…

厚生労働省の通知を見る限り「本心から差額ベッドを使いたい!!」という人以外は、差額ベッド代を一切払わなくて良いです。そのように制度が出来ています。

しかし、実際には入院時に「大部屋は空いていないので個室に入院して下さい。」などと言われて同意書を書かされ、渋々差額ベッド代を払ったという話が後を断ちません。

こんな時はどう立ち向かえばいのでしょうか?

厚生労働省の通知を根拠にして差額ベッド代の支払いを拒否するのが正論

払う必要のない差額ベッド代はきっぱり拒否するのが正解です。

病院は、本来は請求できないと分かっていながら、敢えて差額ベッド代を請求しているフシがあります。患者が無知なら、何の疑問もなく払ってくれるからです。

差額ベッド代は無知な人が搾取される典型的な例なんです。

一方、請求をきっぱり断れば、病院は意外におとなしく引き下がることも多いようです。

https://twitter.com/macaronicheese0/status/1062357400345137152

自力で交渉すると看護師や医師との間に角が立つかも

しかしキッパリ拒否するとかえって悪い結果になるケースもあります。

差額ベッド代を払わずには済んだものの、看護師さんや医師との関係が悪化した話もあります。

看護師や医師と差額ベッド代についてのやり取りをするのは得策ではないかもしれません。

お役所に泣きつくのが一番。最も頼りになるのは地方厚生局

では、どうすればいいか。

差額ベッド代。差額ベッド代請求は病院側の自由なのでしょうか? – 弁護士ドットコムが参考になります。

相談者の方は、差額ベット代を払わずに済んだそうです。

この中の弁護士のアドバイス「厚労省の地方厚生局に相談してみてはどうでしょうか。」が解決策ですね。

また、読売新聞でもこのように解説しています。

疑問を感じたら、地方厚生局かその出先の事務所(都道府県ごとにある)に相談しましょう。違反なら厚生局から病院に指導してもらい、すでに払った分でも返還を求めることができます。(医療とお金(3)差額ベッド代は患者側が希望した時だけ : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

差額ベッドについて指導や処分を行うのが地方厚生局の医療課であることは、先ほどの厚生労働省の通知を見ても分かりますよね。

医療課に連絡しましょう。急ぎなら電話がいいですね。

  • 北海道厚生局医療課 011-796-5105
  • 東北厚生局医療課 022-206-5216
  • 関東信越厚生局 048-740-0815
  • 東海北陸厚生局 052-979-7382
  • 近畿厚生局 06-6942-2414
  • 中国四国厚生局 082-223-8225
  • 四国厚生局 087-851-9502
  • 九州厚生局 092-707-1123

ここは役所に活躍してもらうのが一番いいと思います。

差額ベッド代の支払いを巡ってトラブルになることは、そう多くはない

病院とトラブルになったらどうするかという話をしましたが、実はトラブルに巻き込まれる確率はさほど多くありません。

私の親族にも、差額ベッド代を渋々払わされた者はいません。

入院時に差額ベッドを勧誘されることはありましたけども、普通にお断りしたら、話は全て終わりました。

前回も書きましたが、そもそも差額ベッド代のかかる病床の数が全体のうち2割しかなく、差額ベッドを利用している入院患者は全体の5%程度です。

病院との間でトラブルが起きるのはこの中のほんの一部なので、入院を怖がる必要まではありません。

ただ「もしそんなことになったらどうするか」という知識は、持っておくに越したことはないでしょう。

その辺りがどうしても気になるようなら、差額ベット代が一切かからない民医連の病院に入院するのがいいかもしれません。

医療制度を改善する運動もすすめ、「いのちは平等である」と の考えから、差額ベッド料はいただいていません。(民医連のご紹介 – 全日本民医連

また、一般の私立病院よりも、公立病院や大学病院の方が、差額ベッド代のトラブルを避けようとする傾向にあります。

入院時にこの辺りのことも考えて病院選びをするのもいいかもしれません。

医療保険に入っても、差額ベッド代の支払いを断固拒否するノウハウは必要

実際に病院からの差額ベッド代請求を拒否するのは、結構な心理的負担です。

そんなことを考えているときに保険営業マンから「差額ベット代の支払いに備えて医療保険に入られてはいかがですか」などと言われると、心がグラッとくるかもしれません。

医療保険に入っておけば、差額ベッド代支払い拒否交渉をしなくてもよさそうな気がしますものね。

しかし、一日あたり数万円もの料金がかかる高額な差額ベッドに対して医療保険は力不足です 。

差額ベッドを利用するなら、保険に入っていても、保険とは別にある程度まとまった資金を用意しておく必要があります。

首尾よく資金が用意できればいいですが、用意できなければ、差額ベッド代の支払いを断固拒否するしかありません。

医療保険に入っていても、病院による差額ベッド代の不当請求を拒否するノウハウは絶対に必要なんです。

だったら、差額ベッド代に備えて医療保険なんて入る必要なんてあるのでしょうか?

参考:差額ベッド代支払い拒否関連コンテンツ

大手メディアやツイッターでも、自ら希望することなく利用した差額ベッド料金の支払いを、断固拒否する事に関するコンテンツを見ることができます。


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