HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

高額療養費制度のおかげで入院医療費はとても安くなる-医療保険に加入する意義が乏しいと言われる最大の理由

連載:医療保険は不要 第5回です。

前回は、保険証のパワーで医療費の自己負担割合は3割以下になる ことについて書きました。

今回は高額療養費制度について書きます。

高額療養費は、医療費の自己負担額が際限なく膨らまないようにしてくれる制度です。

高額療養費制度は、医療費が高額になったときに自己負担割合を1%または0%に引き下げてくれる

病院で保険証を提示すれば、医療費の自己負担割合は1割~3割で済みます。残りの7割~9割は公的医療保険が払ってくれます。

大変ありがたいのですが、医療費総額が例えば1億円まで膨らむとどうでしょう。

これでは家計は大ピンチです。

しかし実際は、医療費が一定額を超えて膨らんだときには、超えた部分については自己負担割合は1%または0%に下がるんです。

これが高額療養費制度です。

※高額療養費は、69歳以下と70歳以上では異なった仕組みが適用されます。この記事では、69歳以下の現役世代の高額療養費についてのみ説明します。

69歳以下の高額療養費
出典:厚生労働省ホームページ (http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000161153.pdf)

公務員を含むサラリーマンは標準報酬月額(おおよその月給)を基準に、その他の方は旧ただし書き所得(=前年の総所得金額等-33万円)を基準に、アイウエオの5段階に区分されます。

それぞれの段階で、ひと月の医療費自己負担上限額が設定され、負担が際限なく膨らまないようにしてくれています。

区分ア(標準報酬月額83万円以上)の場合

まずは最上位所得層である区分アから見てみましょう。医療費自己負担上限額の計算式は次の通りです。

  • 252,600円+(医療費総額-842,000円)×1%

まず252,600円に注目です。

単にきりの悪い数字に見えますが、実は252,600円=842,000円×30%なのです。

これを先ほどの式に代入するとこうなります。

  • 842,000円×30%+(医療費総額-842,000円)×1%

医療費総額が842,000円までなら30%(3割)負担。842,000円を超えた部分は1%負担。

ということですね。

医療費総額と自己負担額の関係をグラフにすると以下のようになります。

医療費総額自己負担額
100万円254,180円
1000万円344,180円
1億円1,244,180円

高額療養費制度のおかげで、医療費総額が1億円でも、自己負担は1億円の3割(3,000万円)より遥かに少なくて済みます。ありがたい話です。

 

区分イ(標準報酬月額53万円~79万円)の場合

次に、2番目に高所得な区分イについて考えましょう。医療費自己負担上限額の計算式は次の通りです。

  • 167,400円+(医療費総額-558,000円)×1%

167,400円=558,000円×30%ですから、次のように書き換えられます。

  • 558,000円×30%+(医療費総額-558,000円)×1%

医療費総額が558,000円までなら30%(3割)負担。558,000円を超えた部分は1%負担。

ということですね。

医療費自己負担額のグラフは、区分アの時と比べて左で折れ曲がります。

医療費総額 自己負担額
100万円 171,820円
1000万円 261,820円
1億円 1,161,820円

区分ウ(標準報酬月額28万円~53万円)の場合

区分ウについて考えましょう。医療費自己負担上限額の計算式は次の通りです。

  • 80,900円+(医療費総額-267,000円)×1%

80,900円=267,000円×30%ですから、次のように書き換えられます。

  • 267,000円×30%+(医療費総額-267,000円)×1%

医療費総額が267,000円までなら30%(3割)負担。267,000円を超えた部分は1%負担。

ということですね。

医療費自己負担額のグラフは、さらに左で折れ曲がります。

医療費総額 自己負担額
100万円 87,430円
1000万円 177,430円
1億円 1,077,430円

区分エ(標準報酬月額26万円以下)の場合

区分ウまでと異なり、医療費自己負担上限額は定数(57,600円)となります。

ですが、意味を考えるために、あえて計算式の形に書き換えてみます。

57,600円
57,600円(医療費総額-192,000円)×0%
192,000円×30%(医療費総額-192,000円)×0%

医療費総額が192,000円までなら30%(3割)負担。192,000円を超えた部分は0%負担。

ということです。

1か月の医療費が192,000円を超えたら、超えた部分の医療費の自己負担はゼロ円になるというありがたさです。

グラフはさらに左で折れ曲がったうえ、折れ曲がった後は水平線となります。

医療費総額 自己負担額
100万円 57,600円
1000万円 57,600円
1億円 57,600円

1か月の医療費が1億円かかっても、自己負担額は57,600円です

区分ウの方の場合、1か月の医療費が1億円かかると自己負担額は1,077,430円でした。。。

区分ウと区分エの差はすごいですね。

区分オ(住民税非課税者)の場合

現役で働いている間は関係なさそうな区分です。詳しい説明はしません。

医療費自己負担上限額は定数(35,400円)となり、区分エよりさらに低い水準に抑えられます。

グラフは割愛します。

医療費総額 自己負担額
100万円 35,400円
1000万円 35,400円
1億円 35,400円

過去1年間に3ヶ月以上医療費自己負担額が上限に達すると、医療費自己負担の上限額がさらに下がる(多数回該当)

高額療養費制度では、医療費の自己負担額が上限額に達する月が過去1年間に3ヶ月以上ある時に、医療費自己負担の上限額が引き下げられます。有り難いですね。

この仕組みを多数回該当といいます。

厚生労働省ウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000161153.pdf)内の表を加工して作成

多数回該当を頭に入れておかないと、長期入院費用を正確に見積もることできません。。。注意しましょう。

高額療養費は暦月単位で適用されるため、同じ入院期間でも退院の時期によって、医療費自己負担額の上限は異なることがある

高額療養費は暦月単位で適用されます。

同じ日数の入院でも、入退院の時期によって、入院医療費の自己負担額が大きく違ってくることがあります。注意が必要です。

1ヶ月間の入院の場合

例えば、12月1日から12月31日まで1ヶ月間入院した場合、入院医療費の自己負担額は高額療養費制度で規定されている上限額以内に収ります。

しかし、12月10日から翌年1月9日までの1ヶ月間入院した場合は月をまたいでいるので、入院医療費の自己負担額はもっと高くなります。

12月10日から12月31日までの期間、1月1日から1月9日までの期間、それぞれに高額療養費が適用されるからです。

それぞれの期間については、入院医療費の自己負担額は、高額療養費制度で規定されている上限額までで収まります。

12月10日から翌年1月9日まで1ヶ月間入院した場合の入院医療費の自己負担額は、高額療養費制度で規定されている上限額の2倍以内ということになります。

同じ1ヶ月の入院でも、月をまたぐかまたがないかで大きな違いです。

複数月にわたる入院の場合

複数月にわたる入院でも、入退院の時期によって、同じ入院期間でも入院医療費の自己負担額に違いが生じます。

12月1日から2ヶ月入院した場合の入院医療費の自己負担額は上限額の2倍で済みますが、12月10日から2ヶ月入院した場合の入院医療費の自己負担額は上限額の3倍を考える必要があります。

12月1日から3ヶ月入院した場合の入院医療費の自己負担額は上限額の3倍で済みますが、12月10日から3ヶ月入院した場合の入院医療費の自己負担額は上限額の4倍を考える必要があります。

4ヶ月以上入院した場合の入院医療費の自己負担額は、多数回該当も考えないといけないので、話はそう単純ではありませんけどね。

次回は…一部の公的医療保険でしか受けられない「高額療養費の付加給付」について説明します。

今回は高額療養費制度のありがたさについて説明しました。

今回説明したことは法律で定められた最低限の給付内容です。どの公的医療保険に加入していても受けることが出来る恩恵です。

しかし、公的医療保険のうち共済組合や健康保険組合の一部では、高額療養費制度は最低水準を大幅に上回る給付内容となっています。

最低水準を上回る給付を付加給付と言いますが、次回は高額療養費の付加給付について説明します。


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