HCDコンサルティング(旧・中川勉社会保険労務士事務所FPウェブシュフ)のブログ

保険に入ると損!純保険料と付加保険料を見れば明らか


妻は公務員(教師)。1級ファイナンシャルプランニング技能士の@web_shufuです。

【ちょっと得する】双子の出産で備える医療保険の話| I Love Twins!!~双子のママパパへという記事を見ました。

上の記事の「ちょっと得する」は気分的なものを指しているに過ぎません。

もし本気で「医療保険に入った方が得だ」と考えている人がいるなら、それは大間違いです。

医療保険にかぎらず、民間保険会社の運営する保険は、契約者全体としては損するように出来ています。

確かに保険で得をする人はいますけど、それ以上に損をする人の方が多くなるからです。

その損失分が保険会社や代理店の従業員の給料原資になっています。

この辺りのことを、純保険料と付加保険料に注目しつつ、医療保険を例に説明します。

本記事でいう「医療保険で得(損)をする」とは?

本論に入る前に言葉の定義を一つだけ。

本記事では、ある保険商品についての支払保険料総額が、医療保険からの受給額合計を下(上)回る状態を「保険で得(損)をする」と定義します。

保険からの受給には、各種保険金、給付金、返戻金、契約者配当などがあります。

これを踏まえて以下の文章をお読みくださいm(_ _)m

保険料は純保険料と付加保険料とに区分することができる

生命保険の保険料は、保険金の支出に当てられる純保険料と保険会社の事務費に充てられる付加保険料に大別でき、両者を合計したものを営業保険料といい保険契約者が支払う保険料の額となっている。(国税庁

医療保険に加入した契約者が支払う保険料は、純保険料と付加保険料から成ります。

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純保険料は保険金の原資となる

純保険料とは保険料のうち保険金の支払に充てられる部分 (金融庁

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純保険料はわかり易いですね。保険金や給付金の財源として保険会社が運用・保管する部分です。

保障内容が同じ保険では、純保険料はほぼ同じ水準になります。

付加保険料は保険会社や代理店で働く人の給料原資となる

付加保険料は少々ややこしく感じられるかもしれません。

付加保険料(予定事業費)とは保険料のうち保険事業の運営に充てられる部分であり、予定新契約費と予定維持費で構成される。 (金融庁

「付加保険料(率)」とは、保険会社が保険事業を営むための費用に相当する部分です。(損害保険料率算出機構

要するに保険の契約・集金・維持管理に必要な費用が付加保険料なんです。

ところで、契約・集金・維持管理をしているのは、保険会社やその取引先(保険代理店など)の社員ですよね。

ですから、付加保険料は、保険会社やその取引先(代理店等)で働く人の給料原資ということになります。

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契約者全体としては、付加保険料の分だけ損をする

ここまでで、契約者が支払った保険料から、付加保険料(保険会社従業員などの給料原資)が差し引かれた残りが、純保険料(保険金や給付金の支払い原資)となることが分かりました。

契約者全体としては、付加保険料の分だけ損失を被ることになります。

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保険は損をするものであり、損失分が保険会社や代理店で働く人の給料原資となっているのです。

保険料全体に占める付加保険料の割合は小さくない

ところで、保険料全体に対する付加保険料の割合はどれくらいでしょうか。

一部保険会社は、保険料のうち純保険料の占める部分と付加保険料の占める部分を開示していますので、そこから調べてみましょう

ライフネット生命の終身医療保険「じぶんへの保険3」エコノミーコースに40歳女性が加入した場合、保険料の内訳は以下の通りになります。

費目金額(円)
月額保険料総額4,069100
純保険料3,20978.86
付加保険料86021.14

付加保険料の割合は2割強ですね。

ちなみに、ライフネット生命は通信販売に軸足を置いた会社ですから、付加保険料は少なめです。

営業職員や保険代理店を多数使って対面販売に力を入れている生命保険会社では、付加保険料の割合は2割などでは済みません。もっと大きくなります。

終身医療保険に加入して得をするのはレアケース

付加保険料が存在する以上、医療保険に加入するのは、確率論的には損です。

ライフネット生命の終身医療保険「新じぶんへの保険」エコノミーコース(入院給付金日額10,000円コース)に40歳女性が加入した場合で考えましょう。

厚生労働省による平成26年簡易生命表を見ると、40歳女性の平均余命は48.11年。約50年です。平均すると、40歳女性は約90歳まで生きるということです。

40歳女性が90歳まで生きるものと仮定して、生涯で支払う保険料総額、純保険料総額、付加保険料総額をそれぞれ求めてみました。

生涯合計金額(円)
月額保険料総額2,441,400100
純保険料1,925,40078.86
付加保険料516,00021.14

死ぬまでに支払う保険料の総額は200万円を超えます。

死ぬまでに受け取る給付金や保険金の合計がこの金額を超えない限り、医療保険への加入は損失となります。

支払限度日数は1回の入院につき60日
(中略)
入院を2回以上した場合には、入院理由にかかわらず、1回の入院とみなします。
ただし、退院日の翌日からその日を含めて180日を経過した後に開始した入院については、新たな入院とみなします。(終身医療保険「新じぶんへの保険」 保障内容 | 生命保険・医療保険のライフネット生命

入院給付金の支払い条件にこのようなものがついている以上、医療保険に加入して得になるケースはレアケースとなります。

純保険料の全てが保険金の支払いに充当されるわけではない

ところで、保険金や給付金の支払い原資とされている純保険料ですが、実はこれもすべてが保険金や給付金の支払いに回されるわけではありません。

純保険料は、実際の保険金支払いに必要な金額より、多めに設定される

確かに、純保険料は保険金・給付金の支払い原資ですが、実際に支払われる保険金・給付金よりも多めに設定されるのが普通です。

純保険料が不足すると保険会社としてはまずいことになりますし、もしそれが原因で経営危機になったりすれば契約者にとっても不幸なことだからです。

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図では保険会社従業員給料の後の「原資」が抜けてしまいました、スイマセン

例えば、ライフネット生命の終身医療保険「新じぶんへの保険」エコノミーコースに40歳女性が加入する場合、契約者一人が生涯で払う純保険料は約165万円となります。

言い換えると、ライフネット生命は、契約者一人当たり約165万円を保険金支払い原資として確保していることになります。

しかし、実際に支払われる保険金や給付金の合計は、これをかなり下回ることになるでしょう。

余った部分は保険会社の利益となり、契約者から見れば損失となる

保険金や給付金の実際の支払額は、純保険料(保険金支払い財源)として確保された金額よりも少なくなります。この差額も、保険会社の利益(危険差益等)となり、契約者から見れば損失となります。

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図では保険会社従業員給料の後の「原資」が抜けてしまいました、スイマセン

このように、医療保険に加入した場合の損失は、付加保険料を上回るものになります。

ライフネット生命の終身医療保険「新じぶんへの保険」エコノミーコースに40歳女性が加入する場合でも、契約者一人当たりの損失は支払い保険料総額の2割を超えるでしょう。

それでも、ライフネット生命は通信販売に軸足を置いた会社ですから、契約者の損失は比較的少なめです。

営業職員や保険代理店を多数使って対面販売に力を入れている生命保険会社の医療保険に加入すると、契約者の損失はもっと膨らみます。

保険会社で商品設計などに関わっている複数の保険数理人に確認したところ、「医療保険」の保険料から、入院給付金などとして加入者に還元されるおカネの割合は、70%くらいと見込まれるそうです。(生命保険は、あまりにも「手数料」が高すぎる | 保険 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

保険は損だけど、それでも敢えて入った方がいい場合もある。

ここまで「保険は損だ」という話を延々としてきました。

でも「保険に絶対入るな」と言いたいのではありません。

保険はそもそも損を覚悟で加入するものです。

小さな損と引き換えに、家計破綻を確実に防げるなら、保険を使うのも有りでしょう

たとえば、「不幸による支出の急増で家計が破たんするリスクがあるのに、資金融通の当てはない」という場合に、支払える程度の損を確定させて家計破綻につながる大損を確実に防ぐためなら、保険加入の意義はそれなりにあるでしょう。

一方で、不幸によって支出が急増しても家計破綻の心配がないほどの資産・収入・後援者があるなら、損をしてまで保険に加入する意味は薄いでしょう。

また、保険料を支払う余裕が乏しい場合も、保険に加入する意味は薄いです。保険に入ることで、保険では対応できないリスクによる家計破綻の危険性が現実的なものとなってくるからです。

結局、大損その他のデメリットを上回るメリットを、保険加入に見出すことができる場合だけ、保険に入ればいいのです。


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