花巻東高校千葉選手のプレーは夏の甲子園が閉幕した今も話題沸騰中です。しかし、あのカットはバントと判断されて当然です。
(注)このエントリは千葉君の打撃を擁護する野球素人だけど法律家の意見: ナベテル業務日誌に賛否とも物申したい点があって書いています。
バントかどうかの判断は審判に全面的に委任されている
高野連の規則に拠れば
17.バントの定義
バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある。
(規則6.05(d))
このうち最初の文でバントとは以下の2つを満たす打撃だということがわかります。
- バットをスイングしない
- 内野を緩く転がるように意識的にミートした打球
ただし、2つ目の文では、カット打法においてはバントの定義が少々変わることがわかります。
- 打者が意識的にファウルにする
- バットをスイングしない
わざとファウルする場合は「内野を緩く転がるように」という条件が抜け落ちます。
どちらの定義にしても打撃がバントに該当するか否かは審判員の裁量にゆだねられています。
つまり、審判の目から見て、
- バットをスイングしない
- 内野を緩く転がるように意識的にミートした打球
か
- 打者が意識的にファウルにする
- バットをスイングしない
を満たしたように見える打撃はバントです。
審判が試合を通じて同じ基準でバントか否かを判定したのであれば問題はありません。
スイングの明確な定義はない
バントの重要な判断基準になっているスイングですが、実は規則上明確な定義はありません。
これも審判の裁量にゆだねられています。審判から見て振ったように見えるならスイングだし、振っていないように見えたらスイングじゃありません。
ナベテル業務日誌さんや私を含む部外者から見てスイングに見えたかどうかは全く関係ありません。
手首が返ったかどうかがスイング判定基準というのは都市伝説です。手首が返ったスイングがスイングと取られていないことなどプロアマ問わず枚挙に暇がありません。
スイングの判定基準は、審判や試合毎に異なります。サッカーでファウルの判定基準が審判や試合毎に異なるのと同じことです。
審判が試合を通じて同じ基準でスイングか否かを判定したのであれば、規則上問題はありません。
過去の判例
審判の裁量が大きく基準が曖昧なので、審判は判断に迷うかもしれません。
このような場合頼るべきは前例です。法律の世界で言うなら判例に頼るようなものでしょうか。
2ストライク後のカット打法によるファウルがバントに該当するとして、スリーバント失敗⇒三振⇒バッターアウトと判断された例があります。
◆主なカット打法に対する注意
▽1983年センバツ準々決勝 東海大一(静岡、現・東海大翔洋)のエース杉本尚彦(3年)が右肘痛に見舞われ、享栄(愛知)打線が球数を投げさすためカット。球審から注意をうける。
▽92年センバツ決勝 東海大相模(神奈川)の8番・吉田道(3年)が帝京(東京)戦の3回、2ストライク後に三沢興一(3年)が投じた球をカット。三振の判定を受ける。
http://hochi.yomiuri.co.jp/baseball/hs/news/20130822-OHT1T00002.htmより引用
しかしスイングの判定の参考にはなりませんね。
立法趣旨
私は法の素人ですが、立法趣旨とか法律の目的がとても大事であることは知っています。
千葉君のカット打法がバントにあたるかどうかを考えるにあたって以下の2点はとても大事です。
- スリーバント失敗がバッターアウトとされるようになった趣旨
- 高野連の規則「17.バントの定義」でわざわざカット打法場合のみ別の定義が用意された趣旨
スリーバント失敗がバッターアウトとされるようになった趣旨
これはバックスクリーンの下で ~For All of Baseball Supporters~:90フィート間の錬金術師にわかりやすく載っています。
さて、イチローの先輩であるウィリー・キーラーは、現在でも適用されている、あるルールを作るきっかけになった選手としても有名だ。「スリーバントルール」だ。今でこそ、2ストライクからのバントで打球がファールになれば、その打者には三振アウトが警告される。1902年に施行されたルールだが、そのきっかけになったのがウィリー・キーラーと言われている。実際、ウィリー・キーラーは得意な球が来るまでバントで粘るという戦術をとっていた。
スリーバントルールが当たり前になっている現代から見ると、ウィリー・キーラーの作戦は何ともセコイものだが、彼がルールを変えるだけの打者だったことは否定できない。
「スリーバント失敗⇒アウト」は「得意な球が来るまでバントで粘るという戦術」を禁じるためのルールです。
高野連の規則「17.バントの定義」でカット打法の場合のみ別の定義が用意された趣旨
以下のページに、意図的にファールを打ち続けた選手の行動が「17.バントの定義」を作り上げた顛末が載っています。
[img-link url=”http://set333.net/ru-ru06fauru.html” title=”ルールを変えた男”]
度を越えたファール打ちによって「スイングせずに故意にファールを打つ=バント」というルールが出来ました。
故意にファールで粘るのは禁止行為に等しい
スリーバント失敗がバッターアウトとされるようになった趣旨や「17.バントの定義」でわざわざカット打法場合のみ別の定義が用意された趣旨からすれば、「得意な球が来るまでスイングせずに故意にファールを打って粘るという戦術」は禁止です。
スイングしたかどうかは基準に過ぎず、故意にファールを打つ行動が禁止なのです。
そしてその判断は全面的に審判に任されています。
したがって、「故意にファールを打っていることが濃厚でそれが繰り返される場合などの悪質なケースにおいて手首が返ったくらいではスイングと認めない」のも、審判の裁量として成り立ちます。
ですから審判団が千葉君のカット打法を「スイングしていないのでバントだ」と見立てても妥当です。
繰り返されるカットはリスキー
千葉君はじめ故意にファールを打つことが多い打者というのは、常にスリーバント失敗のリスクを負っています。
故意にファールを打ち続けるのは、クリーンな作戦などではなく、限りなく黒に近い灰色で、なおかつ愚かな手法です。
ナベテル業務日誌さんはこの点をどのように理解して書かれたのでしょうか。
審判団の不適切な行為
上に書いたように審判が千葉君のカット打法をバントと判断したことは妥当です。
また、判断の変更が試合の途中で行われなかったことも妥当です。
審判団が準々決勝の途中で千葉君のカットが目に余ると判断しても、試合の当初で同様な打ち方をバントと判断していなかったら、途中で判断を変えるわけにはいきません。
判断を変えるなら準決勝以後最初に千葉君が「バントとみなすべきカット」を行った時にするべきです。
それをわざわざ
あの打法はスリーバント失敗になります。次からアウトにしますよ』
(http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/08/21/kiji/K20130821006461350.html
から引用)
と準決勝開始前に警告するのは問題でしょう。花巻東高校を不公平に利する行為です。
ルールに則れば、審判は試合中に血も涙も無く「今のはバントだ!!アウト」と宣告するべきです。
事前警告すれば、花巻東高校は千葉君をスタメンから外すなどの対応策をじっくり考える時間を不当に得ます。
私が延岡学園の関係者なら「審判、お前ら何えこひいきしとんじゃー」と言いたくなります。
また、ルールに則らない方法で事前警告したことは、ナベテル業務日誌さんやフモフモコラムさんがご指摘のように、自分たちが悪役になりたくないがために水面下でご理解くださいという無言の圧力かけたものと誤解されても仕方ありません。
事前警告は審判団として最低最悪の対応でした。
千葉君にも責任は有る
高校入学以来、甲子園の準々決勝まで見逃されてきたファール打ちという得意技を、準決勝直前に出来なくなった千葉君は無念でしょう。
でも千葉君にも責任はあります。
千葉君は強豪校の野球部員。ルールを知らない筈がありません。
カット打法によってスリーバント失敗を宣告されるリスクはわかっていたでしょう。
指導者の責任はさらに重大
でもそれ以上に問題なのは指導者でしょう。
野球のルールの趣旨に外れるような打撃法を得意技にするよう指導して、教え子に悲しい思いをさせました。
そのほかにも、教え子にルール違反の行動を指示、又は教え子の問題行動を放置して、対戦相手から勝者を素直にたたえる気持ちを奪いました。
特に準々決勝の対戦相手・鳴門高校選手の談話は、異例な内容に満ちています。
「走者がサインを出しています、って言いました。露骨にやったんでもう(球審に)言おうと」
「(疑わしい動作が)わかったので、試合を止めて、審判の判断で注意に行きました」
「走者が首をかしげたり、内角を攻めようとしたら、打者が後ろに下がったり。ベンチからの声もあった。意識せずにいつも通りやろうと思ったんですが、あそこまでやったんで」
「そういうチームに負けたくない、と思って力みました。悔しいです」
http://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/p-bb-tp3-20130820-1175994.htmlより引用
ちなみにサイン盗みは審判が疑わしいと感じただけでクロです。
ナベテル業務日誌さんの言うように、花巻東の指導者は過去の対戦チームや千葉君はじめ部員・OBに土下座して謝るべきです。
でも、自分たちの筋を通さなかったことは謝らなくていいです。
むしろ、これまで自分たちが通してきた筋が間違っていたことを、対戦チーム・部員・OBに謝るべきでしょう。
最後に
狙ってファールを打つのは、狙ってヒットを打つより、技術的にははるかに楽です。
だからカット打法が登場するのです。
でも、ほぼ確実にファールを打つのは、ヒットを3割の確率で打つのには及ばないにしてもかなり技術レベルが高いです。
千葉君は普通にやってもとてもスキルフルな選手だと思うので、今後の活躍に期待したいです。
またクリーンになった花巻東高校を来年以降見てみたいです。
創意工夫が道を外れない範囲で発揮されたとき、とても面白い野球が見られる気がします。
追記
プロのバッターと千葉君のカットを比較して、千葉君のカットがバントと判断されてしまった視覚的・外形的基準について書きましたのでご一読を!。
[img-link url=”https://webshufu.com/the-reason-tsuruokas-foul-should-not-be-regarded-as-bunt/” title=””]
千葉君のカット打法をアンチベースボールと断じたエントリーです。こちらもご一読を勧めます。
[img-link url=”http://www.goodbyebluethursday.com/entry/2013/08/25/120000″ title=”花巻東高校千葉翔太選手のカット打法問題について 「相手の嫌がることをする」というのはこういうことではない – さようなら、憂鬱な木曜日”]